富士山の名物雲が生まれる頻度と条件を科学的に解明―笠雲、吊るし雲、旗雲をライブカメラで3年間観測し詳細に分析:筑波大学
(2025年11月25日発表)
富士山にかかる「笠雲(かさぐも)」や「吊るし雲(つるしぐも)」、「旗雲(はたぐも)」は特有の幻想的な現象として知られ、観光客や写真家に人気がある。この雲の発生条件などを筑波大学計算科学研究センターが初めて科学的に解明したと11月25日に発表した。
「笠雲」は、山が時代劇に出てくる旅の“三度笠”を被っているように見える。「吊るし雲」は、凸レンズ状の雲が空に吊るされるような形。「旗雲」は、山陵に沿って旗のようになびくスタイルで、いずれもユニークな絶景だ。しかしなぜこのように変わった雲が生まれるかについては、経験的な仮説にとどまっていた。
日下 博幸(くさか ひろゆき)教授の研究チームは富士山周辺に設置した7台のライブカメラで3年間にわたり常時観測を続けた。その画像を詳細に分析し、それぞれの発生頻度や発生条件を明らかにした。
笠雲、吊るし雲、旗雲にはそれぞれ形状が似た幾つかのパターンがあるが、どれが主要タイプか不明だった。笠雲は「接地笠」、吊るし雲は「楕円型」、旗雲では「馬のたてがみ型」が主なタイプと判明した。
発生条件では、「笠雲」は主に暖かい季節の朝に発生し、強い西南西の風が吹き、山頂付近やその上に湿った空気の層がある日に見られる。
「吊るし雲」も南西風で発生するのは笠雲と似ているが、湿った空気の層がやや高い場所にあり、鉛直方向の風速や方向が小さい傾向にあった。夏場に西南西風が富士山の長軸(北西―南東方向)に対して直角に吹くと発生しやすい。
笠雲と吊るし雲は発生のシーズンや時刻が似ているものの、風の条件の違いが今回初めて分かった。
「旗雲」は、前の2つのタイプとは違って、寒い季節に乾燥した北西風の吹く日中に多く発生する。風は低い高度では弱く、山頂に近づくと急に強まり、さらに上空では一層強くなる特徴があった。これは山越えの山岳波を発生しにくくし、吊るし雲とは反対の条件になった。
富士山にかかるユニークな3つの雲のタイプを、実際の観測データによって初めて科学的に解明できた。
今後は、雲の生まれ方に関わる4つの条件である風向、風速、湿度の鉛直分布、大気境界層の構造を数値シミュレーションによって解明することにしている。




