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昆虫のカマドウマの腸内から新種の菌類を発見―動物腸内と外部の2つの環境にすむため「腸内外両生菌類」と命名:筑波大学

(2022年10月11日発表)

 筑波大学生命環境系の出川 洋介准教授の研究グループは10月11日、バッタの一種・カマドウマの腸内では「コウボ」状態となり、糞では「カビ」状態となる違った姿で生活する新種の菌類を発見したと発表した。水中と陸上の双方で生活する動物の両生類のようなもの。こうした中間的な生活様式の菌類は世界でも初めての発見であり、新たな生態群として「腸内外両生菌類」と呼ぶことにした。

 カビやキノコ、コウボなど菌類の仲間は地球上のあらゆるところで生息している。その祖先は水中から進化の過程で動物や植物とともに陸に上がったと思われる。しかし、菌類の陸上進出の具体的な過程はまだ解明されてなく、現在の菌類の多様性の成立を知る上で重要視されている。

 その中でも初期に陸上進出したと考えられる特殊な姿のカビの一群、キクセラ亜門は、節足動物の「腸内菌」と土壌や糞に生息する「腐生菌」、さらに他の菌類への「寄生菌」の3つの生活様式が知られている。

 生活様式の進化過程の解明には、進化の過度期にある中間的な性質の菌類が適しているが、キクセラ亜門ではそのような菌類の報告がなかった。

 キクセラ亜門の腐生菌の一部は、動物の糞や節足動物の死骸からのみ検出されている。出川准教授らは土壌に生息する未知の菌類に狙いをつけて調査。カマドウマ昆虫の糞から新しい菌類を分離した。

 形態の特徴や分子系統解析によって、新種であることを確認し、「ウングイスポラ・ラフィドフォリダルム」と命名した。ウングイスポラはラテン語で「爪を持つ胞子」との意味で、小胞子嚢(しょうほうしのう)の表面にあるカギツメから名付け、ラフィドフォリダルムはカマドウマ科の学名に由来する。

 分離したカマドウマ科昆虫の腸内を解剖すると、小胞子嚢が腸内に付着しながら酵母のように単細胞で増殖していた。キリギリス亜目の「前胃」と呼ばれる器官には、鳥の砂肝のように食物をすりつぶして噛み砕く機能が発達している。この前胃の噛み砕き運動によって小胞子嚢のカギ爪の隙間に毛が挟まり、たくさんのカギ爪を持つ不思議な小胞子嚢によって腸内に留まる機能を持っていることが明らかになった。

 さらに胞子は、酸素が少ない嫌気条件でないと発芽しないことが分かった。カマドウマの腸内で嫌気条件でのみ発芽するように制御していると考えられる。

 これらの観察から、爪を持つ胞子は、カマドウマの腸内でコウボのように増殖するステージと、カマドウマの糞上で菌糸が成長するステージの全く異なる2つの姿での生活をしていることが判明した。腸内菌と腐生菌の長官的な生活様式を示す菌類は世界でも初めて発見となった。