意識にのぼらない新しい学習刺激が過去の学習を強化―より効率的な学習・練習法の開発に寄与:理化学研究所
(2025年9月6日発表)
(国)理化学研究所 脳神経科学研究センターの国際共同研究グループは9月6日、視覚による動きの認識を利用した学習実験を行った結果、「意識にのぼらない新しい学習刺激は、古い学習を促進する場合があることが示された」と発表した。効率的な学習・練習法の開発につながる成果という。
スポーツや語学、楽器演奏などの日常の学習において、新たな学習が以前に習得した学習を損なうような例は身近に起きる。例えば新しいピアノ曲を練習した後に以前覚えた曲を弾こうとすると、指が思うように動かないことがある。心理学ではこのような現象を「逆向干渉」と呼び、後から行われた学習が前の学習の記憶を弱めると考えられている。これは、最初の学習が脳内で安定する前に次の学習が行われることで、両者が干渉してしまうためと説明されている。
研究グループは今回、この逆向干渉とは逆に、新しい学習が前の学習を促進・強化する「逆向促進」の可能性を検証した。
行なった実験は、コンピュータ画面に表示される多数のドットが特定の方向に動いているか、それともランダムに動いているかを被験者に見分けてもらう作業を基本としたもので、集中して目をこらせば動きが分かる閾上(いきじょう)刺激、頑張って見ても動きが分からない閾下(いきか)刺激の提示の仕方を変えて学習効果を測定した。
その結果、①動きが見える閾上刺激では逆向干渉が起きる。すなわち、閾上刺激を用いて練習を続けて2回行うと、1回目の練習で習得した学習効果が弱まる逆向干渉が確認された。
②動きが見えない閾下刺激では逆向促進が起きる。すなわち、意識的にはほとんど感じ取れない閾下刺激で続けて2回練習を行うと、1回目の練習の効果が高まった。
③促進効果は短時間でしか起こらない。すなわち、閾下刺激を用いた練習でも、最初と次の練習の間に1時間の休憩を挟むと、逆向促進は消失した。
④閾下刺激を用いた練習を1回のみ行なった場合では、学習効果は見られなかった。逆向促進は、最初の練習で生じたわずかな脳の変化を、続く練習が強めた結果と考えられるという。
以上の結果から、動きの刺激が意識にのぼるかどうかが、新しい学習を促進するか、あるいは妨げるかを決定している可能性が浮かび上がったという。この発見は学習同士の相互作用に「意識の有無」が重要な役割を果たしていることを示唆するもので、多様な分野の学習・練習への研究成果の応用が期待されるとしている。