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温室効果ガスの発生抑えるダイズの育成法を開発―増え続ける世界のN₂O放出の低減に朗報:農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2025年9月5日発表)

(国)農業・食品産業技術総合研究機構と東北大学、帯広畜産大学、(国)理化学研究所の共同研究グループは9月5日、地球温暖化の一因とされる「N₂O(一酸化二窒素)」の放出を抑えるダイズの育成法を開発したと発表した。

 N₂Oは、CO₂の実に265倍もの温室効果を示し、低減化が世界的に求められている問題の地球温暖化ガスの一つ。その難物のN₂Oを分解する能力の高い根粒菌(こんりゅうきん)をダイズの根に共生させる方法を見つけ、土の中のダイズの根粒が崩壊することで発生するN₂Oの放出量を大幅に減らす方法を開発した。

 根粒菌は、土壌中に生息する微生物の一種で、ダイズなどのマメ科の植物は根粒菌との相互作用によって根にコブ状の「根粒」と呼ばれる器官を作り、その根粒の中に共生する根粒菌が空気中の窒素をアンモニアに変換(窒素固定)して栄養源の窒素分を得ている。

しかし、時間と共に根粒は、老化していき、崩壊する過程でN₂Oが発生、大気中に放出している。

 そこで、これまでにも高いN₂O分解能を持つ根粒菌を農地のダイズに接種することで老化・崩壊した根粒からのN₂O放出量を低減する試みがなされてきた。

 しかし、農地の土壌中にはさまざまな種類の根粒菌が存在し、その土着の根粒菌はN₂Oを分解する能力を持たないものが多く、接種したN₂O削減根粒菌はそれらに負けてしまって大多数の根粒に土着根粒菌が共生してしまい、力を十分発揮できなかった。

 それに対し、今回研究グループは、N₂O削減根粒菌が共生する根粒の割合を高めたダイズ・根粒菌共生系を開発し、効率良く働くようにする方法を見つけN₂Oの放出を大幅に減らすことに成功した。

 実験で効果を測定した結果、開発したダイズ・根粒菌共生系を持つダイズでは、土壌から放出されるN₂Oの量がその共生系を持っていないダイズの15%にまで大幅に減少することが分かった。

 さらに、ほ場(農場)での試験でも土壌からのN₂O放出量を接種していない試験区の26%にまで減少させることができたという。

 ダイズは、世界中で栽培されており、温室効果ガスの放出が少ない食糧生産システムであるが、過去数十年間にわたってN₂Oの排出量は増加し続けているといわれる。研究グループは「開発した技術によって、ダイズのほ場から放出されるN₂O量が大きく削減されることで環境負荷の少ないダイズ生産が可能となり、地球温暖化の抑制に貢献できると考えられる」と自信を見せている。