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PM2.5による急性心筋梗塞―“主犯”はブラックカーボン:桜十字グループ/東邦大学/国立環境研究所ほか

(2025年9月4日発表)

 大気汚染物質PM2.5の主要成分「ブラックカーボン」が増えると急性心筋梗塞の発症リスクも高まる。医療・介護事業を展開する桜十字グループや東邦大学、(国)国立環境研究所などの研究チームは、環境省が実施する観測データなどを分析した結果を発表した。ブラックカーボンが心筋梗塞リスクを高める可能性を初めて示したとして、環境保健政策に大きな示唆を与えるとみている。

 PM2.5は大気中に漂う千分の2.5mm以下の粒子状物質。呼吸器疾患や循環器疾患、がんの発症にも関与している可能性が指摘されている。そこで熊本大学、日本循環器学会も参加した研究グループは、ブラックカーボンなどPM2.5の構成成分が急性心筋梗塞による入院数の増加とどう関係しているかを分析した。

 日本循環器学会が全国828の医療機関を対象にした「循環器疾患診療実態調査」から急性心筋梗塞と診断された40歳以上の救急入院症例をピックアップ。PM2.5については、環境省が大気汚染物質モニタリングのために全国10地点で実施した測定結果のうち、人の少ない山間部や離島を除く7都道府県の測定結果を用いて両データを比較分析した。

 研究では、特に2017年4月から2019年12月までに急性心筋梗塞と診断された平均年齢70歳の患者4万4,232例を対象にした。分析の結果、入院当日と前日のPM2.5の大気中濃度が上昇すると、急性心筋梗塞の発症リスクが増加していることが分かった。 

 特にPM2.5のうち炭素を主成分とする燃料が燃えた際に発生するブラックカーボンの濃度が増えると、急性心筋梗塞のリスクが明らかに増加。一方、水溶性化合物や硝酸イオンなど、PM2.5を構成する他の成分との明らかな関連は認められなかった。

 こうした結果から、研究チームは「総PM2.5濃度以上にブラックカーボンに注目すべきだ」として、今後の政策立案や公衆衛生対策に活かしていく必要があると指摘している。