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地表の光合成活動―衛星使い30分単位で推定:千葉大学/国立環境研究所ほか

(2025年7月9日発表)

千葉大学と(国)国立環境研究所、(国)森林総合研究所は7月9日、植物による光合成活動を気象衛星で30分ごとに推定する手法を開発したと発表した。晴れや曇りで異なる光の利用効率の違いや、乾燥時における光合成活動の低下も正確にとらえられる。異常気象による植物の障害を早期発見できるほか、一日から年単位の炭素収支の変化も一貫して捉えられるという。

千葉大の環境リモートセンシング研究センターを中心に、(国)宇宙航空研究開発機構(JAXA)や韓国、ドイツの大学も加わった国際共同研究チームが、日本の気象衛星「ひまわり8号・9号」の観測データを活用して開発した。

「ひまわり」は赤道上空約3万6,000kmを地球の自転に合わせて回る静止衛星で、日本周辺や東南アジア、オーストラリアなどの地域を常時観測している。研究チームはその観測データを利用して、地上の植物による光合成量を30分単位で推定する手法の開発に取り組んだ。

開発では、①森林は太陽から直接届く光よりも、大気中の微粒子などによる散乱光をより効率よく利用、②光がある程度以上強くなると植物の光合成は頭打ちに、③光合成量は猛暑時の高温ストレスで低下する可能性など、これまでの研究で明らかになってきた点も考慮した。

従来手法では、数値気象モデルでコンピューターが算出した気温データを用いていたが、新手法では「ひまわり」がとらえた観測データで推定した地上の植生面の温度を用いた。光合成量は地上で現地観測をしてきた研究者によるデータとも突き合わせて算出するなどの工夫をした。

その結果、これまで弱点とされていた光合成量の推定誤差を大きく改善できた。猛暑時の日中に光合成活動が低下する「昼寝現象」についても、「ひまわり」の観測データからより高感度で推定できるようになった。そのため、晴れた日に昼間の光合成量を過大に、また朝夕や曇りの日に少なく見積もったりする問題点も改善できた。

研究グループは、「異常気象が森林や農作物に与える影響を高頻度で把握できるようになり、被害の早期検出や農業・林業のリスク管理に役立つ」と話している。