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腐肉のニオイを出す擬態花の擬態進化明らかに―ニオイの成分「ジメチルジスルフィド」を作る酵素を特定:国立科学博物館ほか

(2025年5月9日発表)

 国立科学博物館をはじめとした国立遺伝学研究所、昭和医科大学など9機関の共同研究グループは5月9日、腐った肉や糞(ふん)のようなニオイを放ってハエなどの昆虫を引き寄せ、花粉を運ばせる「腐肉擬態(ふにくぎたい)」花のニオイを生み出す仕組みを解明したと発表した。

 花による腐肉擬態というユニークな現象が、どのような成り立ちで進化してきたのかが 明らかになったという。

 腐肉や糞のような臭いニオイで昆虫を招き寄せ、花粉を運ばせる腐肉擬態花としては、世界最大の花として有名なラフレシアやショクダイオオコンニャクなどがよく知られている。また、そのニオイの元となっている主成分は硫黄を含む「ジメチルジスルフィド」という分子で、アミノ酸の一種であるメチオニンに由来すると考えられてきた。

 しかし、このような花がどのような仕組みで強烈なニオイ物質を作り出しているのか、どのようにして進化してきたのかについてはこれまで詳しくはわかっていなかった。

 研究グループはジメチルジスルフィドの生合成を調べ、これまでいわれていたようにジメチルジスルフィドはメチオニンの酸化によって生じるのではなく、酵素反応を介して作り出されていることを突き止め、この反応を担う新たな酵素(DSS)を特定した。

 DSSの機能は、陸上植物が共通して保有する祖先的な酵素メタンチオールオキシターゼからわずかなアミノ酸配列の変化で獲得されること、つまり、DSSの機能を獲得する進化がわずかなアミノ酸置換でもたらされることを実験的に示すことに成功した。

 さらに、そのメカニズムを担う酵素DSSがカンアオイ属、ヒサカキ属、ザゼンソウ属という全く異なる植物で独立に進化、獲得されていること、全く同じプロセスを経て同じ機能を持つ酵素を獲得したことを発見した。

 これらの研究成果により、花による腐肉擬態というユニークな現象がどのような成り立ちで進化しうるのかを明快に説明できるようになったとしている。