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無酸素の地下深部で生きる―細菌の省エネ戦略解明:産業技術総合研究所ほか

(2024年6月3日発表)

 (国)産業技術総合研究所は6月3日、(国)海洋研究開発機構、日本電子(株)と共同で国内にある天然ガス田の地下堆積物と地層水から採取した新たな細菌の培養に成功したと発表した。細菌は棒状の杆菌(かんきん)で、酸素のない地下深部で他の細菌の細胞壁成分を利用してその形状を保っていることが分かった。巧妙な“省エネ戦略”によって地下深部で生き抜く姿が明らかになったことで、未知の微生物資源の開拓にもつながると期待している。

 培養したのは、国内天然ガス田の地下深部にある堆積物と地層水から採取した細菌「IA91株」。世界中の海洋や酸素のない環境に広く生息する「Marine Group A」に属しているが、このグループの細菌の純粋分離に成功したのは今回初めて。

 IA91株のゲノム(全遺伝情報)を解析したところ、細菌の生存に不可欠な細胞壁を作る糖とアミノ酸の合成に必要な遺伝子が欠けていることが分かった。そのためIA91株は自分で細胞壁を作ることができず、そのままでは浸透圧で菌体内に水が浸透してしまう。そのため球状になって本来の姿である棒状になれず増殖もできない。

 ところが細胞壁の断片物質「ムロペプチド」を培養液に加えると、IA91株は棒状の形を取り戻して増殖し始めた。さらに、加えるムロペプチドはどの種類の細菌から採取したものでもよかった。一方、細胞壁を構成する要素を糖・アミノ酸にまで分解したものを与えても球状のままで、本来の姿である棒状にはならず増殖もしなかった。

 細菌は一般に、細胞壁の合成と分解を繰り返しながら増殖するが、その際に細胞壁を自らムロペプチドにまで分解し、それを再び取り込んで細胞壁を合成するというリサイクルをしている。これに対し今回の「IA91株」は、自らの増殖・生存に他の細菌から得た細胞壁成分を借用するという大胆な省エネ戦略を採用していることが初めて明らかになった。

 微生物の新たな省エネ戦略が今回の成果で明らかになったことで、「環境中の未知・未利用・未活用微生物資源の開拓にも大きく貢献する」と、研究グループは期待している。