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海底火山噴火に新モデル―マグマ内部にナノ粒子:海洋研究開発機構/京都大学/東北大学/静岡大学/高エネルギー加速器研究機構

(2023年5月9日発表)

 (国)海洋研究開発機構、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などの研究グループは5月9日、2年前に日本各地の海岸に大量に押し寄せた軽石を詳しく分析し海底火山の新しい噴火モデルを提案した。マグマ溜り内部に水が入って酸化反応が起きると同時にナノ粒子が形成され、爆発的な噴火につながったという。火山島や海底火山の活動が活発化しているため、今後の防災・減災に役立てる。

 海洋研、高エネ研のほか、京都大学と東北大学、静岡大学も加わった研究グループが分析したのは、2021年8月13日に巨大噴火した福徳岡ノ場(ふくとくおかのば)の海底火山から放出された軽石。この海底火山は東京の南方1,300㎞にあり、この時に放出された軽石は日本各地の海岸に大量に流れ着き大きな話題になった。このとき流れ着いた軽石の多くは明るい灰色をしていたが、研究グループはその一部に黒い部分が混じっていることに注目、その違いを詳しく分析した。

 その結果、灰色部分はガラス質であったのに対し、黒色部分は磁鉄鉱や黒雲母、単斜輝石のナノ粒子(ナノは100万分の1ミリ単位の大きさ)を多量に含んでいた。そこでさらに、高エネ研の放射光施設で詳しく分析したところ、ナノ粒子を多量に含む黒色部分の方がナノ粒子を含まない灰色軽石よりも3価の鉄が多く、より酸化的な環境で生まれたことが明らかになった。

 これらの違いを理論的に分析した結果、海底火山の下にあるマグマだまりの内部でマグマが水と反応、酸化が起きてナノ粒子の磁鉄鉱と黒雲母が作られることが分かった。従来、ナノ粒子は噴火の最中に火道で起きる冷却・減圧によって作られると考えられていたが、これとは異なり噴火の準備過程でマグマだまりの内部で作られていることを意味するという。

 従来は、マグマの一部でナノ粒子が作られる結果、粘性が高くなって噴火の爆発規模を大きくすると考えられていた。しかし、今回の研究ではマグマの粘性が直接の要因ではなく、ナノ粒子の形成がマグマ溜り内部で発泡を引き起こして爆発的な噴火につながる可能性を示すことができたという。