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イワシなど多く摂ると心筋梗塞などが減少―世界の1年の死亡者を50万~75万人減らせる:国立環境研究所

(2024年4月10日発表)

 (国)国立環境研究所と(国)産業技術総合研究所などの国際共同研究チームは4月10日、牛や豚などの赤身肉の摂取を健康に良い「小型浮魚(こがたうきうお)類」と呼ばれるイワシやサバなどに代替すると世界的に急増している心筋梗塞(しんきんこうそく)などによる死亡を減らせることが解析の結果分かったとする研究結果を発表した。世界の4つの代表的な「非感染性疾患」による死亡者数を大幅に減らせる可能性があることが分かったとしている。

 小型浮魚類は、海の表層プランクトンを餌にし、イワシ、サバ、ニシンなど大群をなして回遊している小型の魚類のこと。人間に必要な栄養分を豊富に含んでいる。しかし、現在人間が食材として食べているのは、世界で漁獲されたうちの約26%程度にしか過ぎず、残りは魚粉や魚油の製造に使っている。

 一方、今回研究の対象にした「非感染性疾患」は、WHO(世界保健機関)によると「生活習慣の改善で予防可能な疾病」と定義されている世界的な病気。牛や豚などの赤身肉の摂取量の増加がその発症の増加と関連していることが報告され、世界の非感染性疾患による年間死亡者数は2000年の約3,100万人から2019年には同4,100万人にまで増加して世界の全死亡原因の70%を占めている。

 こうした中で、日本では古くから小型浮魚類を「青魚(あおざかな)」と呼び健康に良いとして、今もその消費の拡大を提唱する研究が増えている。

 そこで、今回の研究は、オーストラリアのサンシャイン・コースト大学と国際共同研究チームを組んで牛や豚などの赤身肉をイワシ類・サバ類などの小型浮魚類に代替した場合の世界的に急増している4つの非感染性疾患(心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病、大腸がん)への影響を評価できるようにしようと取り組んだ。

 研究では、2050年の小型浮魚類の潜在的供給量と、世界の地域別・国別の赤身肉と魚の摂取量がどうなるかをFAO(国連食糧農業機関)のデータなどから推計。世界の赤身肉の消費量を2050年までに8%減少させその減少分をイワシ類などの小型浮魚類で代替した場合に4つの非感染性疾患による死者数がどう変わるかを見た。

 すると、2050年には世界で発生する4つの非感染性疾患による死者数が8%の代替で年に50万~75万人減少するという結果がでた。

 研究チームは「アジアの内陸国やアフリカなど魚の摂取量が少なく、疾病を患っている人が多い国々に小型浮魚類をより多く割り当てることで世界の非感染性疾患の負担を大きく軽減できることが示された」と話している。