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1,000年ヤクスギの樹上に未知の生物相を発見―多様な無脊椎動物が生息、老齢木の確実な保全を:筑波大学ほか

(2024年3月25日発表)

 筑波大学生命環境系の佐伯 いく代 准教授、神戸大学農学部の石井 弘明 教授らの研究グループは3月25日、屋久島(鹿児島県・やくしま)の樹齢1,000年を超えるヤクスギの樹上に、地上とは違う新たな林冠(りんかん)土壌を発見し、極めて多くの無脊椎(むせきつい)動物の存在が検出されたと発表した。

 屋久島のヤクスギは樹齢1,000年を超す老樹木が多い。幹の直径は1m以上で樹上には太い枝が広がった林冠があり、未知の生物のすみ家があると推定されていた。しかし調査が難しく解明されていなかった。

 林冠土壌とは、樹上の枝や幹の分かれ目などに樹木の葉が積もり、長い年月の間に分解、堆積して土壌になったものをいう。

 研究グループは屋久島の小花山試験地にあるヤクスギのうち、樹齢1,000年以上の老樹木5本と江戸時代に伐採され再生した樹齢300年ほどの若樹木4本にそれぞれ登り、高さ10mから27mの場所で林冠土壌を採取した。それぞれの根元付近の地上の土壌も採取して比較した。

 これらを遺伝子解析したところ採取サンプル全体から33目183科と多くの生物群が検出された。

 老齢樹の林冠土壌からは1サンプル当たり約12目28科の生物群が検出され、地表の土壌(約11目32科)に匹敵するほどに多様な生物が生息していたことが分かった。一方、若樹木は林冠土壌が少なく無脊椎動物の多様性が低かった。

 老齢樹の林冠の生物群は、地上と異なる独特の豊かな環境を構成していた。小さな生き物が集う貴重なすみかを確認できたことは、森林が持つ生物多様性の価値を捉え直す大きなきっかけになりそう。

 林業で必要に迫られ樹木を伐採する際には、一部の老樹木を確実に残し次世代の森に繋げる必要があるとしている。