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生分解性プラスチックは深海底でも分解される―世界で初めて実証:東京大学/海洋研究開発機構/群馬大学/製品評価技術基盤機構/産業技術総合研究所ほか

(2024年1月26日発表)

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生分解性プラスチックを深海底に設置している様子(有人潜水調査船「しんかい6500」による) (画像提供:東京大学 岩田忠久教授)

 東京大学、(国)産業技術総合研究所などの共同研究グループは1月26日、水深が5,000mを超す深海底でも生分解性プラスチックが微生物によって分解されることを世界で初めて実証したと発表した。水深が深くなるほど生分解の速度は遅くなるため深海で生分解プラスチックが実際に分解されるのかはこれまで不明だったが、世界の様々な深海底で生分解性プラスチックは分解されていると見られる結果が出た。この成果は、国際科学専門誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。

 生分解性プラスチックは、微生物が分泌する酵素によって水に溶ける低分子の化合物に分解された後最終的にCO₂(二酸化炭素)と水になるポリマー(高分子物質)のこと。

 全世界で生産されているプラスチックは、年間約4億tで、米国の科学誌「サイエンス」はその2%相当の約800万tが海洋に流出していると報告しているが、生分解性プラスチックが占める割合はまだ少ない。

 このため、深海底で生分解性プラスチックが微生物により本当に生分解されているのかについては、これまで実証されていなかった。

 そこで今回、(国)海洋研究開発機構(JAMSTEC)、群馬大学、(独)製品評価技術基盤機構、日本バイオプラスチック協会と共に、水深が三崎(神奈川県)沖の757mから日本最東端南鳥島沖の5,552mまでの5個所の深海底に生分解性プラスチックの試験片を設置しそれぞれの変化を調べた。

 調査は、JAMSTECの深さ6,500mまで潜れる有人潜水調査船「しんかい6500」などを使って生分解性プラスチックの射出成形品とフィルムのサンプル(大きさは射出成形品が30×10×4mm、フィルムが4cm角)を3から14ケ月間深海底にセットして観察した。

 すると、いずれのサンプルも表面で分解が起こっていて無数の微生物がびっしりと付着し、生分解を示す粗い凹凸が無数に出現していることを確認した。

 生分解速度は、水深が深くなるにつれて遅くなり、横須賀市(神奈川県)にあるJAMSTECの岸壁での値と比べたところ水深1,000mで岸壁の5分の1から10分の1で、5,000mでは約20分の1だった。

 この生分解速度の低下は、水深が深くなることによる水圧や水温の変化に加え微生物の量の減少などが考えられるといっている。

 さらに、サンプルを回収して表面の微生物を電子顕微鏡で観察し解析したところ、生分解性プラスチックを分解する新規の微生物を多数発見し、それらが世界中のさまざまな海底堆積物に存在していることも分かった。

 この分析結果から、生分解性プラスチックの生分解は、日本近海のみならず、世界中の海底で起こっているものと研究グループは見ており。「生分解性プラスチックは海洋プラスチック汚染の抑制に貢献する優れた素材である」ことが分ったと結論している。

 

深海における生分解性プラスチックの分解微生物による生分解
有人潜水調査船「しんかい6500」により深海底に設置して3ヶ月後の生分解性プラスチックサンプルには、マリンスノーが堆積している様子が観察された。サンプル表面に付着した無数の微生物の作用により、サンプル表面にクレーターが形成するように生分解が進行することが明らかになった。
 (画像提供:東京大学 岩田忠久教授)