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南極の藻類が赤外線で光合成する仕組みを解明―地球外生命はあるのか、新たなカギに:アストロバイオロジーセンター/中央大学/東北大学/高エネルギー加速器研究機構ほか

(2023年2月15日発表)

 自然科学研究機構に併設される「アストロバイオロジーセンター」の共同研究グループは2月15日、南極の藻類が太陽からの赤外線で光合成を起こせる仕組みを解明したと発表した。植物や一般の藻類は太陽光の中の可視光でしか光合成ができない。それが、極寒の地、南極の藻類には、太陽光の赤外線で光合成するものがあり、その光合成に使われるたんぱく質の構造を今回明らかにすることに成功した。この成果は、2月15日付けの英国の科学誌「Nature Communications」に掲載された。

 アストロバイオロジーは、NASA(米航空宇宙局)による造語で、宇宙生物学とも宇宙生命科学とも訳されている。太陽系以外の惑星(系外惑星)が数多く発見されていることから生命の起源や進化を地球だけにとどまらず研究しようとスタートした新しい学問分野のこと。アストロバイオロジーセンターは、その日本における代表的組織で、東京・三鷹市の国立天文台内にあり、今回の共同研究には中央大学、東北大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、基礎生物学研究所、国立極地研究所、兵庫県立大学の研究者が参加した。

 系外惑星の発見は、すでに5千個を超すとされ、赤外線を光合成に利用する生命体があるのではとする見方もあって今回の成果はそうした地球外生命の可能性を探る手掛かりになるかもしれないと研究グループは期待している。

 研究は、第49次と54次南極地域観測隊が南極の陸上で採取した緑藻(りょくそう)の一種「ナンキョクカワノリ」が波長700~800nm(ナノメートル、1nmは100万分の1mm)の赤外線で可視光と同じくらいエネルギ-変換効率の良い光合成を行っていることを見つけ、近年たんぱく質研究で注目されているクライオ電子顕微鏡を使って行った。

 クライオ電顕は、-196℃の液体窒素冷却下でたんぱく質の構造を観察する装置で、南極由来の生物のような少量のサンプルにも使え、緑藻ナンキョクカワノリのたんぱく質の立体構造を解明することに成功した。

 その結果、ナンキョクカワノリのたんぱく質分子は、波長700~800nmの赤外線を吸収するための光捕集アンテナたんぱく質を持っていて11個の同じたんぱく質がリング状に結びついた立体構造をしていることが分かったという。

 ナンキョクカワノリは、赤外線を光合成に利用するシステムを進化の過程で獲得し南極という非常に厳しい環境でも繁殖できるようになったものと見られることから、研究グループは「太陽系外で見つかっている惑星の多くは太陽より温度が低く主に赤外線を出す恒星の周りにあり、赤外線を光合成に利用する生命の可能性が示唆されている。今回の成果は、そうした生命の可能性を探る手掛かりかもしれない」といっている。