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1細胞ごとの糖鎖・RNAの情報を1万個分一斉解読―病気の発見や予防、治療に糖鎖の利用促進:産業技術総合研究所ほか

(2024年1月15日発表)

 (国)産業技術総合研究所と筑波大学の共同研究グループは1月15日、約1万個の細胞1個1個に発現する糖鎖とRNAを一斉解析する「ドロップレット型1細胞糖鎖・RNAシーケンス法」を開発したと発表した。病気の発見、予防、治療への糖鎖の利用の促進が期待されるという。

 糖鎖はブドウ糖などの糖が鎖のように繋がった生体分子で、すべての細胞表面に存在し、細胞間相互作用を媒介することで多様な生命現象に関与している。

 近年、難病をはじめとする各種疾患の解明や治療法の開発に向け、糖鎖のような細胞1個1個に発現する生体分子の情報を取得し、生命現象を分子レベルで大規模かつ包括的に解析する研究が盛んになっている。それに伴い、オミクス情報とも呼ばれるこうした細胞1個1個の情報の取得技術が重要になっている。

 情報取得の技術としては、1細胞ごとのRNAの発現を解析する「scRNA-seq法」と呼ばれる手法があり、基礎研究をはじめ医薬品の開発などに世界中で広く活用されている。  

 しかし、従来型のscRNA-seq法は細胞内のRNA発現のみ解析可能であり、細胞表面に局在する糖鎖の情報を直接解析することはできない。このため、多様性が大きく、分岐の構造があるなどの理由から、糖鎖の解析には多大な時間と労力が必要とされ、多くの試料を迅速に解析することは困難だった。

 糖鎖解析技術の開発に長年取り組んでいる産総研は、最近、糖鎖とRNAの発現を同時にプロファイリングできる「scGR-seq法」と呼ばれる技術を開発したが、一度に解析できる細胞数が数百個程度に留まり、組織を構成する一部の細胞しか解析できないという課題があった。

 そこで今回、ドロップレットと呼ばれる技術に着目、scGR-seq法にこの技術を導入した。ドロップレットは油中に形成されるマイクロメートルサイズの微小な水滴を指し、内部に細胞を封入することができる。

 この「ドロップレット型scGR-seq法」の開発で、細胞処理数は100倍程度向上、約1万個の細胞の1細胞ごとの情報取得が可能になった。様々な細胞の糖鎖プロファイルを網羅的に同定でき、病気の解明、医薬品の開発などへの貢献が期待されるとしている。