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硬さと粘り強さを兼ね備えたゲル電解質を開発―柔軟性のあるフレキシブル電池の耐久性向上に期待:東京大学/日本原子力研究開発機構/J-PARCセンター/高エネルギー加速器研究機構ほか

(2023年11月22日発表)

 東京大学とJ-PARCセンターなどの研究グループは11月22日、世界最高水準の強靭性と弾性率を示す硬くて丈夫なゲル電解質を開発したと発表した。フレキシブル電池の耐久性向上が期待できるという。

 ゲル電解質は電極間のイオン伝導を担う電解質の一種で、長い紐状の高分子鎖を連結して作られる網目にイオン伝導性の液体を閉じ込めた構造の材料。高分子由来の柔らかさと安全性から、肌や服に貼り付け可能なフレキシブル電池の電解質として注目されている。

 その実現には、充放電時に生じる樹状結晶の形成を抑制するための硬さと、繰り返しの曲げ変形に耐えられる強靭性が必要とされる。従来の材料では硬さと靭性にはトレードオフの関係があり、両立は難しいとされていた。

 研究グループは今回、ミクロ相分離構造の形成と伸長誘起結晶化という技術を組み合わせることによって、高い弾性率と高い強靭性を両立したゲル電解質の開発に成功した。

 曲げなどの変形で高分子が引き伸ばされると内部の高分子鎖が伸びきり、互いに集まることで結晶化、つまり伸長誘起結晶化し、材料の力学強度が向上する。研究グループはこの原理をゲル電解質に適用し、伸長誘起結晶化を起こす環動ゲル電解質を開発した。

 この環動網目構造を適切に制御することで高分子鎖の変形を均一化し、強靱化を実現した。

 また、電解質中において環動網目の環状分子が凝集して硬い連続相を形成することが分かり、高い弾性率が達成された。

 開発した新材料は、充電池の短絡を防ぐのに十分な硬さと、繰り返し変形に耐えられる強靭性を併せ持つことから、フレキシブル電池の耐久性向上に繋がる。肌や服に貼り付け可能なフレキシブルデバイスへの応用が期待されるとしている。