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バイカル地域に人類が拡散した時期を解明―4.4万~4万年前に初期の定着起こる:森林総合研究所

(2023年11月29日発表)

 (国)森林総合研究所とカンザス大学(米国)、東京都立大学、金沢大学の国際研究グループは11月29日、バイカル湖(ロシア)の湖底堆積物の花粉解析などからバイカル地域に現在の人類がいつ頃出現し拡散していったかを突き止めたと発表した。その結果、氷期(寒冷期)の最中に生じた温暖化の時期とほぼ同じ時期だったことが分かった。1,000年ごとの人類の活動状況の変化も調べたところ、温暖化などの気候変動に対する人類の適応を明らかにしていく上で重要な具体的知見が得られたという。

 人類は、猿人から、原人、旧人、新人の4段階に分けられる進化をとげてきた。新人は現在の人類のことで、「現生人類(ホモ・サピエンス)」と呼ばれる。

 その現生人類が見つかったのはアフリカで、ユーラシア大陸に拡散していったとされる。また、アジアへの人類の拡散は、約5万年前の氷期に北ルートと南ルートに分かれたといわれ、バイカル地域は地中海地域からアルタイ山脈を越えて来た北ルートの人達の重要な地域になっていた。

 このため、バイカル地域の遺跡から出土した遺物も多く、遺跡は旧石器時代の初期に区分され、その年代は約4.5万年前であることが分かっている。

 しかし、西アジアからのバイカル地域への拡散の詳細や、厳しい環境に耐えてどう定着したのかなどは明らかになっていない。

 今回の研究は、そうしたことを背景に行われたもので、先ず行ったのが放射性炭素による年代測定。放射性同位体の質量数14の炭素の放射性壊変を利用して物質の年代を知る計測法で、氷期の5万~2万年前を対象にしてバイカル地域周辺の遺跡から出土した炭化物や骨片など合計282の試料について測定し、1,000年ごとの人類の活動状況の変化を調べた。

 加えて、バイカル湖の湖底堆積物に含まれている花粉の分析から時代ごとの植生の変化を明らかにした。

 その結果、バイカル地域には、約4.4万~4万年前に人類の居住が急増し、初期の定着が起こっていたことが分かった。

 さらに、マツやトウヒなどの針葉樹に加え、イネ科などの草本類の花粉が多く出土し、氷期においても温暖で湿潤な時代が5千年もの間続いて草原の中に森林が散在する「森林ステップ植生」と呼ばれる領域が拡大していたことが判明した。

 研究グループは「森林ステップ植生の拡大で生じた多様な動物の増加は、現生人類に十分な食料をもたらし、それが人類の定着の要因となったと推測される」と解説している。

ユーラシアにおける上部旧石器時代のアジア北ルートの人類拡散  (提供:(国)森林機構 森林総合研究所)