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絶滅した巨大な鳥(象鳥)のDNA解析で、飛べない鳥の進化を解明:国立科学博物館

(2016年12月16日発表)

 (独)国立科学博物館は、マダガスカルで絶滅し保管されていた高さ3mを超す巨大な鳥類の「エピオルニス(象鳥)」のDNA解析に取り組み、空を飛べなくなった巨大な鳥たち全体の進化のあらすじを解明したと、12月16日に発表した。従来の説を覆す貴重な成果が出ている。2003年に秋篠宮さまが中心になってスタートした大型プロジェクト「象鳥の総合的研究」の一つで、秋篠宮さま自身も研究に関わっていた。

 鳥類には空を飛べる鳥と、ダチョウのように地上を歩行する(飛べない)走鳥類に分けられる。後者はニュージーランドのキーウィや絶滅したモア、マダガスカルで絶滅したエピオルニスなどがあり、これらを合わせて古顎類(こがくるい)と呼んでいる。

 このうちエピオルニスの最大の仲間、エピオルニス・マキシマスは体高が3m以上、体重が400kgもあり、その卵は長径が32cmもあって、巨大な恐竜の卵をしのぐほど大きい。

 チームはマダガスカルの大学にあるエピオルニスの骨から試料を採取した。コペンハーゲン大学(デンマーク)の協力で、膨大な遺伝子を高速で読み取り解析する次世代シークエンサーを使い、ミトコンドリアの全長配列と7万3,000塩基のDNA配列を解読した。

 ところが試料にはカビや細菌のDNAがたくさん混じっているため、この中からエピオルニスのデータだけを取り出すのに苦労した。現在、科学的に裏づけのある古顎類のDNA配列データを参照にしながら、最新のバイオインフォマティックス(生命情報学)の技術を駆使して解析した。

 これで古顎類の間の系統関係と分岐した年代の推定をしたところ、これまでの通説と違った進化のシナリオが明らかになった。

 一つは、エピオルニス科に最も近い鳥(近縁種)はニュージーランドのキーウィだった。絶滅鳥モアに近いとされていた学説を覆した。ダチョウやモアのような地上で生活する大きな走鳥類の祖先は、元々は空を飛べる小さな鳥だったが、それぞれの生息地に到達した後でしだいに巨大化し飛べなくなったものとわかった。

 もう一つは、現在生息している古顎類は、5億年前から1億年前に存在した巨大大陸のゴンドワナで進化したと考えられ、古い化石に残された姿、形を手がかりにして進化の系統樹に位置づけてきた。

 復旦大学(中国)の米澤隆弘副教授らは、DNA情報がある古顎類の形態データだけに注目して選び出し、リトルニスを進化の系統樹上に位置づける新しい方法を開発した。これで北半球に生息していたリトルニスが、古顎類の系統樹で初期の段階から派生する系統にあることも明らかになった。

 今回、塗り替えられた古顎類の進化の新たなシナリオとは―。元々古顎類の祖先は飛べる鳥だったが、7,000万年前までにダチョウと分かれ、北米から南米に進出し多様化した。当時の南米は、まだ温暖だった南極を通じて陸伝いにオーストラリア、ニュージーランド、マダガスカルに分布を広げた。マダガスカルに渡ったグループが、その後巨大化して飛べないエピオルニスに進化した、としている。