プラスチックに代わる新素材を開発―バイオマスを原料に使って実現:産業技術総合研究所ほか
(2023年5月19日発表)
(国)産業技術総合研究所と(国)科学技術振興機構(JST)は5月19日、共同でバイオマス(生物資源)を原料にして引き伸ばすほど強度が増すユニークな特徴を持つプラスチックに代わる新素材を開発したと発表した。自然に分解する製品をはじめ多様な用途が期待されることから今後さらに合成経路の見直し、コストダウンの検討を進めるとしている。
現在のプラスチック製品の多くは石油を原料としているため、資源の枯渇、廃棄による環境汚染、焼却時の温室効果ガス発生、などの問題を抱えている。
そこで解決策として注目されているのが微生物や酵素によって分解される生分解性の高分子。世界中で様々な研究が行われ、中でも期待されているのが、「PBS」と呼ばれるバイオポリエステルと、「PA4」というバイオポリアミドの両生分解性高分子。共に枯渇しないバイオマスから生産でき、排出される温室効果ガスが植物による吸収を上回らないようにする「カーボンニュートラル」の手段として注目されている。
しかし、課題もいろいろあってまだ実用のレベルにまではいっていない。
産総研とJSTは、今回このPBSとPA4の2つの生分解性高分子が結びついた共重合体を作ることに成功した。
研究を行ったのは、産総研触媒化学融合研究センターの吉田 勝 研究センター長や田中慎二 主任研究員らのグループ。
高分子は、ある分子が数多く繰り返し結ばれてできているが、1種類の分子からではなく2種類以上の分子が繰り返し結合した構造を共重合体という。PBSとPA4とは簡単に混ざらないが、これが均一に混ざるようにして両方の間で共重合を起こし、それぞれのブロック長を変化させたところ生成する共重合体の物性が大きく変化することが分かった。
実験では、PBSブロックとPA4ブロックとが交互に繰り返して結合した共重合体を93%以上の収率で合成することができたという。
こうして得た共重合体は、透明性や柔軟性を持つほか、フィルムにすると元の長さの450%にまで伸び、引っ張るほどに応力が上昇し、引き伸ばすほど強度が増すことを実測した。
研究グループは、実験を総括して「この素材は、透明なフィルムとして成形することが可能で、汎用プラスチック水準の強度を示す」とし、石油由来のプラスチックを代替するカーボンニュートラルな新素材になると期待している。
今回開発に成功した複合化の手法はPBS、PA4以外の様々な高分子の設計にも適用できるという。