透明性、導電性に優れる新たな透明導電膜を開発―赤外の透過率従来の1.7倍、電子移動度世界最高:産業技術総合研究所
(2022年12月5日発表)
(国)産業技術総合研究所は12月5日、光の透過率が従来の透明導電膜よりも最大で1.7倍優れ、電子移動度が世界最高の透明導電フィルムを開発したと発表した。透光性と導電性ともに従来材料よりも大幅に優れることから、透明導電膜を用いた各種デバイスの高機能化、高性能化が期待できるという。
透明導電膜は光透過性と導電性を兼ね備えた薄膜のことで、フラットパネルディスプレイやタッチパネル、太陽電池などの透明電極として広く用いられている。現在はスズ添加酸化インジウム(ITO)、あるいはフッ素添加酸化スズ(FTO)製のものが主に使われている。
産総研のグループが今回開発したのは、酸化インジウム(In2O3)を材料とした結晶薄膜。
微量の水素を添加した非晶質薄膜は、結晶化することで高い電子移動度を実現できる。しかし、150~200℃程度で熱処理する必要があるため、熱に弱い樹脂基板上では結晶化することができなかった。
研究グループは、熱処理の代わりに紫外線エキシマレーザー照射による光結晶成長技術を採用し、前駆体薄膜の形成条件やレーザー照射条件、熱伝達などを制御することにより、耐熱性の低いポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂基板に熱ダメージを与えずに透明導電膜層を結晶化することに成功、フレキシブル高移動度透明導電フィルムを実現した。
性能を調べたところ、電子移動度は市販のフレキシブルITOフィルムのおよそ6倍以上で、世界最高の移動度を確認した。また可視から近赤外線帯域までの広い波長帯域で高い透明性があり、近赤外帯域の波長1,550nm(ナノメートル、1nmは100万分の1mm)を用いた透過率試験では、ITO膜の1.7倍の透過率を確認した。
視認性と防曇性に優れた監視カメラや車載カメラへの応用や、近赤外光を活用する高効率のフレキシブル次世代太陽電池などの開発、応用が期待されるという。