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クリの果実内に潜む害虫を炭酸ガスでくん蒸処理し退治― 減圧・加圧を2回くり返し、短時間で十分な殺虫効果を実現:農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2023年1月24日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は1月24日、クリ果実内に潜むクリシギゾウムシを、低圧炭酸ガスで1時間くん蒸処理することで駆除できる技術を日本液炭株式会社と共同で開発したと発表した。炭酸ガスは飲料・食品分野や医療分野で広く使われており、作業負担が少なく、短時間で十分な殺虫効果があり、安定供給が可能な農薬のため、将来はクリ以外の加工食品への応用も期待されている。

 クリシギゾウムシはクリの硬い果実に小さな穴を開け、果実内部に産卵する。ふ化した幼虫が果実を食害し、外に出る際に大きな穴を開けることから商品価値が大幅に減少していた。こうした被害は、中生品種や晩生品種では6.6〜18.9%も発生していた。

 これまでの殺虫剤の臭化メチルくん蒸剤は、モントリオール議定書で地球のオゾン層を破壊する原因物質の一つに指定され、2005年から原則使用禁止になっていた。

 この代わりにヨウ化メチルくん蒸剤が広く使われていたものの、ヨウ素の需要が世界的に逼迫(ひっぱく)し、価格高騰や供給不足が起きていた。

 農研機構では臭化メチルに変わる農薬開発に取り組み、高圧炭酸ガスくん蒸技術を開発した。しかし2.5〜3MPa(メガパスカル)もの高圧に耐えられる耐圧容器は高価で扱いが難しく、導入が進まなかった。

 今回はこれを更に改良し、1MPa未満の低圧条件でも減圧と加圧を2回繰り返すことで、高圧条件と同等の殺虫効果が得られる技術を開発した。高価な高圧処理装置に比べると低圧容器の費用は10分の1程度と格段に安くなった。

 また低圧炭酸ガスは毒性が低く作業管理がしやすいうえ、クリ果実への薬剤の残留の心配もなくなった。

 新たな炭酸ガスくん蒸法は、耐圧容器にクリを入れて密封し、真空ポンプで真空状態に減圧し、炭酸ガスボンベから0.95MPaまで加圧注入して30分間くん蒸する。この作業を2回繰り返す。炭酸ガスを排出して常温に戻す「減圧、加圧、排出」の工程を全て自動化した。

 今後、クリ以外でも風味や品質を重視した加工食品への応用を考えている。