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二酸化炭素からメタノールを低温合成できる新触媒を開発―カーボンリサイクルに向けメタノールの高効率合成に道:産業技術総合研究所

(2021年1月14日発表)

 (国)産業技術総合研究所は1月14日、低温低圧の温和な条件で、二酸化炭素(CO2)からメタノールを合成できる新触媒を開発したと発表した。二酸化炭素を資源として活用するカーボンリサイクル技術の要となる、メタノールの高効率合成に道を開く成果が得られたという。

 メタノールは化学品の原料や燃料、有機溶媒などとして利用されているアルコールの一種。これまで主に天然ガスのメタンから得られる一酸化炭素と水素を原料に、触媒反応で工業生産されてきたが、近年温室効果ガスである二酸化炭素の排出削減要請のもとで二酸化炭素のメタノールへの変換が着目され、二酸化炭素と水素の触媒反応研究が盛んに進められている。

 ただ、これまでの触媒(銅系固体触媒)は200℃以上の反応温度が必要で、メタノールへの転化率が低く抑えられ、一酸化炭素やメタンが副生するなどの問題があった。反応の低温化が試みられてはきたが、反応機構がはっきりせず触媒設計が困難だったり、生成物と触媒の分離が難しいなどの難点があった。

 産総研の研究グループは今回、先に開発した二酸化炭素と水素からギ酸塩を合成できるイリジウム触媒の技術を発展させ、触媒の活性点となるイリジウム金属を複数持つイリジウム錯体触媒を設計、開発した。

 単核イリジウム錯体触媒を用いた水中での反応実験ではメタノールは生成されなかったが、複核化することによってわずかなメタノール生成が認められた。さらに、液相プロセスではなくガス状態で反応を試みたところ、メタノールの大量生成が生じた。

 従来の触媒の反応条件は温度が2百度~3百数十度、圧力が2~10MPa(メガパスカル)だったが、複核イリジウム触媒では反応温度は百度以下、圧力は2 MPa以下となり、30℃の低温条件、あるいは0.5 MPaルの低圧条件でも触媒反応によって二酸化炭素をメタノールに変換できた。メタンや一酸化炭素の副生は検出されなかったという。

 今回の研究でメタノール合成を低温低圧化するための触媒開発の基盤的知見が得られたことから、今後は触媒の高性能化と低コスト化を目指し、実用性の高いプロセスを開発したいとしている。