[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

歩行で1km、自転車で2kmが健康長寿保つカギ―7千人超す高齢者を8年間追跡し明らかに:筑波大学ほか

(2023年1月12日発表)

 筑波大学体育系の大藏 倫博教授と、山口県立大学社会福祉学部の角田 憲治准教授の研究グループは1月12日、7千人以上の高齢者を対象にした8年間の追跡研究により歩行や自転車移動の距離と要介護化および死亡との関連性を検証することができたと発表した。距離は、歩行が1km、自転車が2kmで、日頃からこの距離を歩行や自転車で移動する意欲を持つことが高齢者の健康を保つカギになることが分かったという。

 自動車などの機械的な移動手段を利用することのできない高齢者にとっては歩行や自転車が日常生活を支える重要な移動手段となる。

 研究グループは、これまでの研究で歩行や自転車移動の「許容距離(歩行や自転車で移動しようと思える距離)」という新たな視点を提案し、この許容距離が短い人ほど外出の頻度や社会との交流などが少なく要介護化や早死に繋がり易い特徴があることを報告してきた。

 今回の研究は、それをさらに進め、笠間市(茨城県)を対象にして実施した郵送調査の回答から得られた高齢者(平均年齢74歳、女性51.8%)7,600人余りを8年間にわたり追跡し要介護化と死亡の状況について解明した。

 具体的には、「行きたい場所(知人宅、スーパー、病院など)が自宅からどの位の距離であれば歩いて行こうと思うか」について「1kmより遠くまで」から「300m以内まで」の4つのカテゴリーと、自転車に乗っての許容距離が「2kmより遠くまで」から「500m以内まで」の4つのカテゴリーのそれぞれどれに属すかを集計すると共に、年齢、性別、学歴、経済状況、一人暮らしかどうか、ガン・脳疾患・心疾患・神経痛疾患といった病気の有無から、外出頻度や主な外出手段、住んでいる場所の土地の傾斜、人口密度などまでを網羅的に調整した上で、許容距離と要介護化・死亡との関連性の検討を行った。

 その結果、①自宅から500mや300m以内の距離しか歩いていこうとしない許容距離の短い人は1kmより遠くまで歩ける人に比べて要介護化リスクが高く、死亡リスクも高い、②自転車移動でも許容距離が1km以内と短い人は2kmより長距離の許容者に比べて要介護化リスク、死亡リスクが共に高い、という解析結果が得られた。

 研究グループは、7千人以上の高齢者を対象とした8年間という長い期間に及ぶ追跡研究で得られた結果であることから「高齢者において歩行や自転車移動の許容距離が短いことは要介護化と死亡のリスクになる」とし、「普段の生活の中で歩行や自転車で移動する意欲を高く持つことが健康長寿を保つ上で重要」と話している。