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薬物や毒を分解する酵素活性―生きた肝細胞で可視化:産業技術総合研究所ほか

(2022年8月22日発表)

 (国)産業技術総合研究所と大阪大学の研究グループは8月22日、体内に入った薬物や毒物を分解する薬物代謝酵素の活性を肝細胞に光を当てるだけで可視化できる新技術を開発したと発表した。生きた細胞で酵素活性の細胞内分布を可視化できるため、新薬開発に欠かせない薬物応答試験や再生医療で用いる肝細胞製品の品質評価に役立つと期待している。

 薬物代謝酵素は、細菌や植物、ほ乳動物に至るまでほとんど全ての生物が持っており、ヒトでも50種類ほど見つかっている。研究グループはこの薬物代謝酵素に注目、阪大が開発した特殊な「ラインスキャン可能な高速ラマン顕微鏡」で詳しい解析を試みた。この顕微鏡は肝細胞を壊すことなく内部の分子を観察することができ、肝細胞の品質や状態を把握できるのが特長だ。

 解析の結果、研究グループは肝細胞で作られ薬物を分解する薬物代謝酵素の活性と、酸化した薬物代謝酵素(酸化型)の分子数の間に一定の関係があることを発見。さらにこの関係を利用することで細胞内の酸化型薬物代謝酵素を検出でき、酵素の活性を調べることができる技術の開発に成功した。

 薬物代謝酵素は主に肝細胞や小腸上皮細胞で作られ、投与された薬物を分解するなどの代謝に関与していることが知られている。この酵素活性が過剰に働いたり阻害(そがい)されたりすると、予期せぬ薬物有害反応を起こすことがあるため、医薬品開発では肝臓の重要機能である薬物代謝酵素の活性評価が欠かせなかった。

 研究グループは今後、今回の成果を利用して「肝臓分化や成熟状態の測定技術を解析ソフトウエアとして確立し、ラマン分光を活用した肝細胞品質管理や創薬開発用の医療支援機器として実用化に取り組む」としている。