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深海底で生きる多様なメタン生成菌の培養に成功―“燃える氷”メタンハイドレートの成因解明に一歩:産業技術総合研究所ほか

(2022年2月2日発表)

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南海トラフ海底堆積物中で生きる多様なメタン生成菌の蛍光顕微鏡写真
最長5年をかけて培養した。メタン生成菌は細胞に紫外線を当てることで蛍光色を発する。白いスケールバーの長さは10 µm(マイクロメートル、1µmは100万分の1m )。
(提供:産業技術総合研究所)

 (国)産業技術総合研究所、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、(国)量子科学技術研究開発機構は2月2日、共同で「メタンハイドレート(MH)」を埋蔵する深海の海底堆積物から多様な生きたメタン生成菌を培養することに成功したと発表した。紀伊半島沖水深約1,000mの東部南海トラフから採取した堆積物を使った。メタン生成菌の培養は難しく、培養実験には5年あまりかかった。MHは“燃える氷”とも呼ばれ、次世代エネルギーの一つとして注目されているが、MHのメタン生成プロセスの一端が明らかになったという。

 MHは天然ガスの主成分であるメタンが水と結びついた結晶。メタン生成菌などの微生物によって生成されたメタンに由来すると考えられ、深海底の下や永久凍土に埋蔵されている。

 気化させると燃える、まさに燃える氷で、我が国では「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21)」の名で研究が進められてきた。2013年には紀伊半島沖の海底下にある地層から世界で初めてメタンガスの採取に成功し、この発表が契機となって関心が高まった。MHには、海底面付近に塊の状態で存在する「表層型」と呼ばれているものと、「砂層型」といって砂層の砂粒と砂粒の間に存在するものの2つのタイプがあって紀伊半島沖の南海トラフでは砂層型が見つかっている。

 だが、メタン生成菌は、酸素のない環境でしか生きることができない微生物なため培養が難しく実際の姿はまだほとんど分かっていない。

 今回の研究は、その突破口を見つけだそうとMH21の構成メンバーである産総研が取り組み続けてきたもので、多様な生きたメタン生成菌を培養すると共に、それらの菌の性質を明らかにした。

 これまでにMH含有堆積物から培養されているメタン生成菌は、水素からメタンを作る2種類だけだったが、今回の研究で培養したメタン生成菌は、7属8種の計10株に及ぶ。

 さらに、従来とは異なる水素以外の酢酸やメタノール(メチルアルコール)を利用するメタン生成菌が生息していることも発見した。

 これまで見過ごされていたメタノールからメタンが生成される経路があることを示唆する成果で、研究グループは「この経路は今後メタン生成をより正確に評価するための新たな研究対象として位置づけられる」と話している。