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腸内細菌がジャイアントパンダのぽっちゃり体形を支える!?

(2022年2月15日)

タケを食べるジャイアントパンダ @Manyman

 ジャイアントパンダは主にササやタケの葉をエサにしていますが、それでもぽっちゃりしています。なぜ、栄養の少ない葉を食べて体が大きくなるのでしょうか?

 このほど、中国科学院などの研究グループは、栄養たっぷりのタケノコを食べられる季節に増える、ある種の腸内細菌によって、パンダの体重が増え脂肪が蓄えられることを明らかにしました。

 ジャイアントパンダのエサは1年のうち約8ヶ月がタケやササの葉ですが、春から初夏にかけての約4ヶ月は、糖やタンパク質を豊富に含むタケノコです。これまでに、パンダの体重はタケノコ食の季節に増えること、タケノコを食べる季節と葉を食べる季節では、腸内細菌の種類や量が変化することがわかっていました。

 いろいろな動物で、食べ物が季節ごとに変化するとき、それに合わせるように腸内細菌の種類や量も変化することが知られています。たとえば、ある種のサルは、新鮮な葉や果実を食べる夏と、木の皮を食べる冬では、腸内細菌の種類や量が異なります。タンザニアに住む狩猟採集民であるハッザ族でも、入手可能な食料の種類が季節によって変わり、それに合わせて腸内細菌の種類や量が変化することが観察されています。

 そこで、研究グループでは、腸内細菌の種類や量の変化がパンダのぽっちゃり体形と関係しているのではないかと予測しました。

 とはいえ、絶滅が心配される野生パンダの腸内を直接調べることは難しいので、野生パンダの糞を無菌マウスに移植する実験を行いました。そしてパンダが食べているようなタケ類をエサとしてマウスに3週間与えました。

 その結果、同じ量のエサを与えたにもかかわらず、タケノコを食べる季節のパンダの糞を移植したマウスは、葉だけを食べる季節の糞を移植したマウスよりも成長が速く、体重が増えて脂肪も多くなることがわかったのです。

 さらに、タケノコ食の季節には、クロストリジウム・ブチリカムという腸内細菌が著しく増えることが確かめられました。そして、この腸内細菌が作り出す酪酸という成分には、脂質の合成と貯蔵を増加させる、Per2というパンダの遺伝子を活性化させることもわかりました。つまり、パンダの腸内細菌の種類や量の季節変化が、脂質代謝を調節するパンダの遺伝子を活性化させていたのです。

 タケノコの季節の腸内細菌が、葉しかない季節のパンダの栄養不足を補っている可能性があると研究グループでは考えています。今回、パンダの腸内細菌と体形の間には関連性があることが初めて明らかにされました。今回のような無菌マウスを使った研究により、今後パンダの健康に影響を与える腸内細菌やその役割が明らかになると期待されます。

 

【参考】

Huang G. et al. (2022) Seasonal shift of the gut microbiome synchronizes host peripheral circadian rhythm for physiological adaptation to a low-fat diet in the giant panda. Cell Reports. 38: 110203. 

保谷彰彦

文筆家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書は、新刊『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共に、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。

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