[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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油滴を含んだ水はどれくらい流れが遅くなるか

(2022年2月01日)

 水はサラサラと流れますが、油はトロッと流れます。では油滴を含んだ水はどれくらい流れが遅くなるのでしょうか。

 水だけまたは油だけを円管内に流したときの流速は決まった式があって簡単に求めることができます。しかし油滴と水が混じった液体を流した時の速さを求める式は確立していませんでした。水の中に多数の油滴が混じっているため、水とも油とも異なった働きをするからです。

 水と油滴が混じりあった物質は乳液などの化粧品、マヨネーズやドレッシングといった食品など身近に数多くあります。このような物質はエマルションと呼ばれています。

 

 今回、東京農工大学大学院生物システム応用科学府の田島千智修了生と同大学院工学研究院応用化学部門の稲澤晋(いなさわ すすむ)准教授は、独自の方法で油滴・水混合液体の流速の違いを調べてみました。

 研究グループは、水に界面活性剤とシリコーン油を混ぜて攪拌(かくはん)しエマルションを作成。このとき、油の体積分率(油の割合)と油滴のサイズを変えてみました。そして、作成したエマルションをガラス製の毛細管に流し顕微鏡で流れを観察しました。その結果、次のような事がわかりました。

 

 油滴は管の中心部分に集まって流れる。体積分率が大きくなると管壁(かんへき)まで密集した状態になる。油の体積分率が大きいほど、また油滴のサイズが小さいほど流速は遅くなる。

 このような観察の結果、油と水の接触面積・水の体積分率・円管の内表面積・油滴無しの水の流れ。この4つの要素によってエマルションの流速が求められる事が示唆されました。

 

 従来の考え方であれば、大小の油滴が混合したエマルションの内部の油滴粒子の粘性を一つ一つ計算するなどの手間と計算リソースがかかったのですが、このたび非常にシンプルな方法で流速の目安をつける事ができると分かったことは大きな成果と言えるでしょう。

 この知見を一般化する事で多くの種類があるエマルションの特性をより細かくコントロールできるようになり、産業の発展に大きく寄与すると思われます。

図 毛細管の中を流れるエマルションのようす。
体積分率の違いによって油滴の流れ方が異なっていることがわかる。
(東京農工大学webページより引用)

 

【参考】

油滴を含んだ水はどれくらい流れが遅くなる?水と油の接触面積が円管内の流速に与える影響を評価

サイエンスライター・白鳥 敬
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。