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北極大気中の黒色炭素粒子は森林火災が重要な発生源―北極温暖化の予測などの改善に寄与:名古屋大学/東京大学/国立極地研究所/気象研究所

(2021年11月4日発表)

 名古屋大学、東京大学、国立極地研究所、気象庁気象研究所、アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(ドイツ)などの研究グループは11月4日、北極の大気を温める要因になる黒色炭素エアロゾル(BC)の濃度は中緯度の森林火災に強く影響を受けていることが明らかになったと発表した。航空機を用いた国際共同観測による成果で、BCの気候影響を評価する数値モデルの検証や改良に役立つという。

 黒色炭素粒子のBCは、化石燃料の燃焼や森林火災などにより大気中に放出される。太陽放射を吸収し、大気を温めるため、北極の温暖化や雪氷の融解に寄与していると考えられている。しかし、これまでは観測例が限られ、発生源やその寄与、気候への影響に不確実性が残されていた。

 研究グループは航空機を用いた国際共同観測プロジェクトに参加し、2018年の3月~4月に北極域のBC濃度を高度5kmまで精密に測定した。これに先立ち2008年、2010年、2015年に実施した航空機観測の測定データと今回のデータを比較し、BCの年々変動の要因などを調べた。

 その結果、北極域の春季のBC鉛直積算量の年々変動が中緯度の森林火災の発生数の変動と概ね一致していることが分かった。鉛直積算量は各高度で測定されたBC質量濃度を地表から高度5kmまで積算したもので、北極域では春季に最も高くなる。この年々変動が中緯度の森林火災の発生数の変動と強いつながりがあることが分かった。

 また、数値モデルによるシミュレーションと観測の比較から、これまで想定されていた森林火災によるBCの排出量は、大幅に過小評価されていた可能性が示された。これは、中緯度の森林火災が北極域のBCの重要な発生源であることを示唆しているという。

 地球温暖化が進むにつれ、様々な地域で森林火災の発生頻度や規模が増大する可能性がある。森林火災によるBCの排出量の将来的な変化が、北極域のBCの存在量や放射強制力に影響を与えると考えられることから、今後の継続的な観測と数値モデルの改良が求められるとしている。