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南方系の魚が日本海側を500kmも北上していることを発見―対馬海流に乗っての移動か? 秋田県下で稚魚を採集:筑波大学

(2021年9月21日発表)

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カワアナゴ (撮影:山川 宇宙)

 筑波大学は9月21日、南方系の魚「カワアナゴ」が従来の記録より500kmも日本海を北上していることを発見したと発表した。これまで記録されていたのは石川県だったが、それより遥か北の秋田県の河川下流で稚魚を採集した。長期的な水温変化のデータが十分でないため、今回の北上発見と温暖化とを直接関連づける知見はまだ得られていないが、今後も魚類の採集調査を続け地球温暖化に伴う南方種の北上傾向をモニタリングしていく予定という。

 研究を行ったのは、筑波大学生命環境系山岳科学センター菅平高原実験所の津田吉晃(つだ よしあき)准教授らのチーム。 

 近年、地球温暖化の進行で日本近海の水温は徐々にだが上昇してきている。その水温上昇に伴い本来南方の暖かい地域に生息する魚類や甲殻類など多くの生物が北方にまで分布を拡げる可能性が生じてきており、将来南方種と元々その地域に生息していた種との間で餌や棲む場所を巡る競争、交雑などが起こって生態系に悪影響を及ぼすようになる恐れがあるのではないかと心配されている。

 研究チームはそうした温暖化の影響を評価するための研究の一環として日本海沿岸の魚類の採集調査を実施、成魚は採集できなかったがカワアナゴがこれまでの記録より500kmも北にまで達していることを稚魚の採集で突き止めた。

 カワアナゴはハゼ科に属す体長が25cmを超えるまでになる淡水魚の一種だが、一生を真水の中だけで過ごす一般の淡水魚とは違う生き方をする。

 稚魚や成魚は河川に生息し産卵も河川で行われるが、孵化(ふか)してから稚魚になるまでの仔魚(しぎょ)の時期は海に下って生活し、その後再び河川に戻って成長する。成魚が生息できる水温は冬季で約7℃とこれまではされていた。

 そのようなカワアナゴが何故冬季水温が約3〜4℃と低い秋田県の河川で今回発見されたのか、ということについて研究チームは「秋田県の河川において成魚が生息し産卵を行っている可能性は低い」としたうえで「採集された稚魚は秋田県で生まれたのではなく、成魚が生息する南方の地域で生まれ仔魚の時に日本海を北東方向に流れる対馬海流に乗って秋田県まで移動してきたものと推測される」と話している。