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透明有機デバイスの性能を高める方法を発見―予想とは逆に結晶化を阻害することが効果:産業技術総合研究所

(2021年7月9日発表)

 (国)産業技術総合研究所は7月9日、透明酸化物電極を組み込んだ透明有機デバイスの性能を高める方法を発見したと発表した。高性能な有機デバイスを、窓のような透明性が要求される場所にも搭載できるようになることから、有機デバイスの用途拡大が期待されるという。

 有機デバイスは軽量、フレキシブルな電子デバイス。次世代のデバイスとして用途の広がりが期待されているが、透明電極を組み込んでデバイス全体を透明化しようとすると、これまでは性能が低下し、実用化を推進する上で障害になっていた。

 研究チームは今回、性能低下のメカニズムを解明し、問題の解決に成功した。

 透明電極は結晶化度が高いほどその電気伝導性が向上するため、結晶化を進めることがデバイスの性能向上に有利と予測され、これまではその予測のもとで結晶化が試みられてきた。ところが、予測に反してデバイス性能は低下した。

 原因の解析を進めた結果、結晶化した透明電極を用いたデバイスにおいては、透明電極下の電荷注入層と有機薄膜の界面にギャップが形成され、このギャップがデバイス内の電気伝導を阻害、そのために性能が低下してしまうことが突き止められた。

 ギャップの形成メカニズムを調べたところ、透明電極はもともと有機薄膜表面にあるナノレベルの凹凸にフィットした形で堆積しているが、電極内に生じる応力の影響で電極に変位が生じ、電荷注入層と有機薄膜の界面にギャップが形成されることがわかった。

 従って、透明電極の膜内応力を低下させれば、ギャップの形成が抑制され、デバイス性能を向上できることになる。一般に酸化物薄膜の膜内応力は膜の結晶性を下げると低減することが知られている。

 これらのことから、結晶化度を進めるのとは逆に、結晶化を意図的に阻害すればよいというアイデアが生まれた。結晶化を阻害した透明電極を組み込んだ有機電界発光デバイスを作製し特性を調べたところ、結晶化の阻害で応力は低減し、ギャップのないデバイスが作れることが確認された。また、ギャップがなくなることで電流-電圧特性、発光特性の大幅な改善が認められた。

 今回得られた知見は、透明電極の結晶化が性能向上に有利とする従来の予測を覆すもので、高性能な透明有機デバイスの実現に道を開く成果としている。