[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

難病の潰瘍(かいよう)性大腸炎治療に道―5年後メドに新薬実用化へ:東京医科歯科大学/筑波大学

(2021年7月5日発表)

 東京医科歯科大学と筑波大学は7月5日、難病の潰瘍性大腸炎が染色体DNAの繰り返し配列「テロメア」の短縮によって起きることを突き止めたと発表した。老化や寿命にも関与するとされるテロメアを伸ばす特殊な酵素「テロメア伸長剤」を使うことで腸の粘膜を正常化できることも確認、新たな治療法に道をひらいた。

 東京医科歯科大の土屋輝一郎非常勤講師(筑波大教授)と渡辺翔非常勤講師らの研究グループが明らかにした。

 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に潰瘍ができるなどして下痢や腹痛を起こす病気。日本でも患者が急増し、国が難病指定している。長期化するとがん化するリスクもあるが、発症の原因は解明されておらず効果的な治療薬もなかった。

 そこで研究グループは、ヒトの大腸幹細胞を用いて潰瘍性大腸炎のモデルを作り解析を進めた。その結果、モデルの大腸上皮細胞に繰り返し炎症刺激を加えると、細胞中の染色体DNA の繰り返し配列であるテロメアの長さが細胞分裂のたびに少しずつ短くなることを突き止めた。この結果から、「テロメアの短縮が、腸上皮細胞の炎症による不可逆的な変化に重要な役割を果たしていることは明らか」と、判断した。

 また、テロメアの繰り返し配列を伸ばすテロメア伸長剤を用いると、炎症を抑制するだけでは改善しない上皮異常が回復することも分かった。このため、既存の治療薬とは全く異なるテロメア伸長剤が難治性潰瘍の修復などに使えることが見込めるとして、研究グループは5年後をメドに実用化を目指す。