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リスの求愛音声に“方言”を発見―見つけにくい森林の中で早期発見につなげ、被害対策に生かす:森林総合研究所

(2021年6月28日発表)

 (国)森林総合研究所と東京都立大学の研究グループは6月28日、東南アジア一帯に生息するリスのオスの求愛音声に方言のような地域差があることを突き止めたと発表した。クリハラリスは生態系や農林業に被害をもたらすことで知られる特定外来生物。森の中に身を隠し、見つけにくいリスの求愛音声を頼りに早期発見につなげ、被害防止に役立てることを狙っている。

 人間が言葉で情報交換をするように、動物も音声(鳴き声)で仲間に危険を知らせたり、繁殖相手を誘い出したりするなどの伝達手段にしている。音声は視覚や嗅覚よりも遠くに届き、瞬時に伝わることから動物の社会では重要な役割を果たす。

 特に求愛音声は、生息環境や動物の好みによって様々に変化し、それが新たな種の形成(種分化)にも影響するなど、配偶行動で仲間を誘い出すのに重要な役割をはたしている。しかし鳥類など特定の動物以外に、求愛音声の地域差と種分化についての研究はなかった。

 クリハラリスは森林に被害を与える害獣で、タイワンリスはこの仲間の一種。台湾からペットなどで日本に持ち込まれたものが野生化し、各地の森林に定着した。植物の花や種子、果物などを主食にし、冬場には樹皮をはいで樹液を食べることから、森林に大きな被害を与え、特定外来生物に指定されている。

 メスが交尾を受け入れる日に、オスが集まってきて独特の声で「コキコキコキ」と鳴き、メスを誘引する。研究グループはタイ、ベトナム、中国の研究者と共に、リスの音声をアジアの10か所で合計207件録音し、音響特性を解析した。音の繰り返し回数や速度などから4つの地域に分けられることが明らかになった。

 録音音声を実験的に再生したところ、周辺に住む多くのオスも交尾に参加するため集まってきたことから、メスだけでなくオスも誘引する効果がある。また、同じ地域のリスの声には誘引されても、他の地域のリスの声には誘引されにくい傾向がみつかった。

 広い分布域の中で地域ごとのリスの群は、何らかの理由によって独自の声には誘引されにくい傾向がある。実験的に音の繰り返し回数や速度を変えると、リスは全く反応しなかった。

 リスの音声にも方言のような地域差があり、それが進むことで信号としての機能を失うことが実験的に証明された。このことから求愛音声の違いは、地域間の遺伝的な交流を妨げる可能性があり、種としては分化を促進する重要な原動力の一つとなりうることが明らかになった。

 研究グループは、この性質を利用して森の中に隠れて発見しにくかったリスを突き止め、被害の防止に役立てたいとしている。