[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

雨によって森林からの真菌類の胞子の放出が増加―放射性セシウムの環境動態研究で発見:茨城大学/京都大学/香川大学/筑波大学ほか

(2020年9月29日発表)

 茨城大学、京都大学、香川大学、筑波大学、気象庁気象研究所、の共同研究グループは9月29日、森林に降る雨が原発事故由来の放射性セシウム(Cs)を含む真菌類の胞子の放出を強めることを発見したと発表した。真菌類の胞子は上空に運ばれると雲のもとになる可能性があることが最近分かってきて注目されており、そうした学術研究に役立つことが期待される。

 真菌類とは、一般にいうカビ、酵母、キノコの総称。

 雨が降ると空気の透明度が良くなる。このことから降水はエアロゾル(空気中にただよう微細な液体、固体の粒子と気体の混合体)を大気から取り除く役割をしていると一般的に理解されている。だが、さらに大気中に浮遊するバイオエアロゾルである真菌類の胞子は上空で氷晶核(気体・液体が固体になる時の核)となって雲の形成や降水にかかわっている可能性があることが分かっており、研究が進められている。

 一方、2011年3月の福島第一原発事故で大気中に放出された放射性Csは今も森林に存在し、そのごく一部は水溶性となって森林環境で循環している。

 そこで研究グループはその放射性Csの環境動態研究を福島県の避難区域内の典型的な山村地域で実施し、これまで行った研究で真菌類が放射性Csを濃縮、その胞子が大気中に放出され再浮遊していると分かっている。

 今回はその山村地域の森林の放射性Cs再浮遊の発生源や放出メカニズムを明らかにしようと天候別のエアロゾル捕集を実施した。

 その結果、再浮遊している放射性Csの担体(他の物質を固定する物質)である真菌類の胞子の発生源が降水時と非降水時とで異なることが分かり、降水時には真菌類の胞子の大気中の個数が非降水時の約1.8倍にもなることを発見。降水時の落葉広葉樹林内と針葉樹林内の大気中の放射性Cs濃度が非降水時のそれぞれ約2.4倍、同1.4倍になっていることが分かったという。

 研究グループはこの成果について「真菌と細菌はヒトの健康や生態系に影響を及ぼすだけでなく、水蒸気氷結の核となって雲形成にも関わる可能性があるため学術的な関心が高く、関連する森林生態学、気象学、気候学、農学など、真菌類胞子が重要性を有する研究分野への波及効果が大きいと考えられる」と幅広い利用を挙げている。