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個体サイズを決定する神経内分泌メカニズムを発見―コラゾニン産生神経がステロイドホルモン生合成を制御:筑波大学ほか

(2020年5月8日発表)

 筑波大学と(国)理化学研究所の研究グループは5月8日、生物の個体サイズを決定するステロイドホルモン生合成の制御メカニズムを発見したと発表した。コラゾニンというペプチドホルモンを産生する神経が、ステロイドホルモン生合成を制御し、個体の成長を調節することをキイロショウジョウバエで明らかにした。

 生物は生育環境に応じて体を適切なサイズに成長させた上で性的に成熟する制御機構を備えている。ステロイドホルモンは、こうした成長と成熟の制御を担う主要な生体分子の一つで、個体内外の環境に応答して生合成されるが、その分子機構には不明な点が多い。

 昆虫は、成長と成熟を研究する上で優れたモデル系であり、これまでの研究によって、昆虫の成熟ステップである脱皮と変態の制御に関わっている昆虫ステロイドホルモン「エクジステロイド」が、キイロショウジョウバエにおいてはその幼虫期に、体内濃度の上昇・下降を繰り返していること、高い濃度のピークエクジステロイドが成熟を促進的に、低い濃度の基底エクジステロイドが体成長を抑制的に制御していること、脳から前胸腺に伸びる前胸腺刺激ホルモン産生神経(PTTH神経)が、エクジステロイド生合成に重要な役割をしていること、などが知られている。

 さらに、PTTH神経の活動を調節する機構も調べられてきたが、それらはピークエクジステロイドの生合成制御に関与するもので、基底エクジステロイドの生合成制御メカニズムについてはよく分かっていなかった。

 研究グループは、前胸腺とPTTH神経の両方に神経連絡を持つコラゾニン産生神経(Crz神経)に着目し、基底エクジステロイドの生合成制御メカニズムの解明を試みた。

 その結果、個体サイズを決定づける3齢幼虫中期に、Crz神経は栄養シグナルを受け取っている。Crz神経から放出されるコラゾニンは、コラゾニン受容体に受け取られてPTTH神経を活性化し、前胸腺での基底エクジステロイド生合成を制御している、といった神経内分泌メカニズムが明らかになった。

 コラゾニンを産生する神経がステロイドホルモン生合成を制御し、個体の成長を調節していることを明らかにしたもので、昆虫ステロイドホルモンの生合成を、発生段階特異的に制御する神経回路を同定した初の成果という。

 コラゾニンの働きは進化的に幅広く保存されていると考えられており、今回の成果は、哺乳類を含む幅広い動物における、ステロイドホルモン生合成の制御メカニズムの解明に貢献することが期待されるとしている。