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貴重な標本に傷をつけずDNAを抽出する方法を開発―これまで非破壊では抽出できなかった「おしば標本」用に:国立科学博物館ほか

(2020年1月24日発表)

 (独)国立科学博物館と福島大学の研究グループは124日、共同で植物の貴重な「おしば標本」からDNA(デオキシリボ核酸)を非破壊で抽出する方法を開発したと発表した。おしば標本は、草花を乾燥させて紙に貼った標本のこと。これまでは標本の一部を切り取って粉砕しないと分子生物学の研究に必要なDNAを抽出できなかった。それを壊さず標本で大切な姿形を変えずにDNAのみ短時間で抽出できるようにした。

 DNAは、「生体の設計図」。その情報にもとづいて細胞は作られている。DNAを構成する4種類の塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)の配列順序が遺伝情報になっていて、その僅かな配列の違いから様々な発明や発見が生まれている。

 そうしたことから生物の標本に残されているDNAを利用する研究が増えている。絶滅種の標本のDNAを解析すれば失われた生物の特性などを解明でき、現在普通に見られる種のDNAと古い標本のDNAの対比から遺伝的な変化を知ることができる

 今回の方法は、調べるおしば標本の表面の一部分にプロテイナーゼKという髪の毛を分解する力を持つ化合物、トリス塩酸バッファー、エチレンジアミン四酢酸、ドデシル硫酸ナトリウムの4物質を含んだ緩衝溶液と呼ぶ液体を少量滴下し30分間静置するというもの。これでDNAのみを抽出することができ、抽出した溶液を回収して通常の分子生物学の方法で解析すればDNAの塩基配列が分かる。

 研究では14種類の植物のおしば標本のそれぞれの表面に1020μl(マイクロリットル、1μl100万分の1l)の緩衝溶液を滴下してmatKrbcLという2種類の遺伝子のDNA塩基配列を検出する実験を行った。両遺伝子とも植物の葉緑体に含まれている光合成反応にかかわる遺伝子として知られるが、「市販のDNA抽出キットを使った結果と同じ(実験)数値となりました」と研究グループは発表している。

 さらに、86年も前の1934年に採集したおしば標本に適用したところ、DNA塩基配列の検出に成功し、古い標本にも使えることが確認できたという。

 この方法は通常の植物DNA抽出法よりずっと短時間・低コストで使える大きな特徴も持っており、活用が期待される。