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手足の運動にかかわる神経回路の異常と機能障害を発見―左右の手の異常をもつ人の神経疾患の解明に期待がかかる:筑波大学

(2020年1月22日発表)

 筑波大学医学医療系の桝正幸(ます まさゆき)教授と玉岡晃教授らの研究グループは、マウスを使って脳の形成に重要な役割を持つ2つの遺伝子を破壊したところ、手足の運動神経回路に異常をきたし、手(前脚)の細かい運動に異常が生じたことを明らかにしたと、1月22日発表した。片側の手を動かすと、反対側の手も思い通りでなく動いてしまう神経疾患の解明につながる可能性があるとみている。

 運動や知覚、記憶、学習などの脳機能は、それらをコントロールする神経回路が正常に作られ、動くことで成り立っている。神経細胞は軸索と呼ばれる突起を、標的細胞に向けて伸ばして神経回路を作る。

 手足の運動に関わる皮質脊髄路は、大脳から脊髄までの長い距離を伸びる神経軸索の束で、これが正しく伸びるためには、多くの遺伝子が正常に働くことが不可欠である。

 研究グループはこれまで胎児マウスを使い、多様な生理機能を発揮する糖鎖(へパラン硫酸)の中の酵素を破壊すると、手足の運動に関わる神経路の形成に重要な影響を与えることを明らかにしてきた。

 今回は大人のマウスを使い、脳の形成に必要な2つの遺伝子を壊して機能の変化を調べた。

 正常なマウスは、片側の脳から伸びた神経回路の束が、延髄の後ろの正中線を交差して脊髄の反対側に達する。ところが2つの遺伝子を破壊したマウスは、正中線を交差せずに同じ側に伸びてしまい混在するという異常がみつかった。

 片側の脳を電気刺激すると、正常マウスは反対側の手だけを動かすのに対して、遺伝子を壊したマウスは両方の手を同時に動かすことも分かった。その結果、遺伝子破壊のマウスは手を伸ばして目標物を正確に掴む運動がうまくできなかった。

 このマウスでの研究結果は、片側の手を動かすと反対側の手も動いてしまう人間の神経疾患である先天性鏡像運動症によく似ていることから、運動障害のある神経機構の解明につながる可能性があるとみている。