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高温超伝導体の母物質で「励起子効果」を実験的に確認―反強磁性交換相互作用によりタブロン―ホロン間に引力:東京大学/東京理科大学/産業技術総合研究所ほか

(2019年6月8日発表)

 東京大学、東京理科大学、産業技術総合研究所と東京工業大学の研究グループは68日、銅酸化物高温超伝導体の母物質であるモット絶縁体では、スピンの向きが互いに逆方向になるように働く反強磁性交換相互作用でタブロン(負電荷)―ホロン(正電荷)間に引力が働き、励起子が形成されることが明らかになったと発表した。

 励起子は電子と正孔の間に通常のクーロン力ではなく引力が働くことによって生じる束縛状態を指す。

 銅酸化物高温超伝導体の母物質であるモット絶縁体では、光励起によって負電荷を帯びたダブロンと正電荷を帯びたホロンという電荷キャリアが生成、両者の間に超伝導のクーパー対の形成と同様のメカニズムによる引力の効果で、励起子的な束縛状態が形成される、つまり励起子効果が現れると予想されていた。

 しかし、電荷-スピン相互作用による励起子効果を詳しく調べることは難しく、実験的な証拠は得られていなかった。

 研究グループは今回、テラヘルツパルス光で励起する「ポンプ-プローブ分光法」という手法を開発し、電場による光吸収スペクトルの変化を精密に測定して励起子効果を調べた。

 その結果、タブロンとホロンを束縛するエネルギーが、スピンの間に働く反強磁性交換相互作用によること、つまり、ダブロンとホロンが高温超伝導体のクーパー対と同様にスピン間に働く反強磁性交換相互作用の効果で束縛状態を形成することを実験的に解明した。

 この発見は、高温超伝導体の発現機構をはじめ、強相関電子系における光励起状態の非平衡ダイナミクスなどの理解の進展につながるとしている。