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環境中親電子物質からの生体防御に2つの経路―胎児の親電子物質に対する虚弱性の要因も浮上:筑波大学

(2019年6月5日発表)

 筑波大学は65日、「環境中親電子物質」と呼ばれる化学物質に対する生体防御の仕組みとして、従来の転写因子Nrf2制御による解毒・排出機構に加え、CSE(活性イオウ分子産生酵素)で産生された活性イオウ分子による捕獲・不活性化が、毒性の軽減に重要な役を負っていることが分かったと発表した。

 また、胎児が環境中親電子物質に対して虚弱性を示す要因に、CSEと活性イオウ分子が関与している可能性が示されたという。

 環境中親電子物質は、身の回りに存在する反応性の高い多種多様な化学物質で、化石燃料から放出されるナフトキノン類、マグロなどの食用魚に蓄積するメチル水銀、米に含まれるカドミウム、タバコの煙に含まれるクロトンアルデヒドなどはその例。

 これらが生体内に取り込まれると、DNAのグアニン残基やたんぱく質のシステイン残基のような求核置換基と共有結合して付加体を形成し、健康に影響を及ぼすと危惧されている。

 ただ、環境中親電子物質に対しては、求核低分子であるグルタチオンによる抱合反応を介した解毒・排出と、その主要な制御因子であるNrf2の働きが生体防御に重要な役割をしていることが従来から知られている。

 また、近年、筑波大の研究グループが、グルタチオンやシステインなどにイオウ原子が付加した活性イオウ分子が環境中親電子物質と反応し、捕獲・不活性化する仕組みを発見している。しかし、その実態はこれまで明らかでなかった。

 研究グループは今回、Nrf2CSE、それとCSE/ Nrf2を欠損した遺伝子改変マウスと、野生型マウスを用意し、これらマウスに様々な環境中親電子物質を暴露してNrf2CSEの役割を評価した。

 その結果、Nrf2CSEが、異なる経路を介して環境中親電子物質の毒性を抑制する鍵分子であることを突き止めることに成功した。

 また、胎児性水俣病などに代表される胎児期における環境中親電子物質に対する虚弱性の要 因に、CSEと活性イオウ分子が関与している可能性が示唆されたという。

 今回の成果は環境中親電子物質に関するリスクの軽減に寄与することが期待されるとしている。