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茶園の土壌から新しい硝化菌を発見―肥料の流亡による環境汚染抑える技術に道:農業・食品産業技術総合研究機構

(2017年3月1日発表)

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分離したアンモニア酸化細菌
(電子顕微鏡写真、バー:0.5µm)
©農研機構 農業環境変動研究センター 

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は3月1日、新しい硝化菌を発見したと発表した。硝化菌の一種のアンモニア酸化細菌で、pH(ペーハー、酸アルカリ度)3という強い酸性の茶園の土壌から分離した。硝化菌のうち酸性に耐えるアンモニア酸化細菌の発見は、これが初めて。茶園で生じる肥料の流亡を抑える技術の開発に役立つことが期待される。

 硝化菌は、アンモニアを酸化して亜硝酸や硝酸にする土壌細菌の総称。

 緑茶は、品質による価格の差が大きい。高品質なものに多く含まれるテアニン、アルギニンといったアミノ酸やカフェインなどの成分は、吸収された窒素の代謝産物として葉の中にできることから多量の窒素肥料が使われる。

 しかし、窒素分は、過剰に施肥すると環境問題を起こす恐れがある。窒素肥料として主に使われる硫安や尿素などの「アンモニア態窒素」は、土壌中のアンモニア酸化細菌などの硝化菌によって硝化(アンモニアを硝酸にする微生物作用)され、「硝酸態窒素」に変わる。

 環境問題を起こすのは、土壌中の余剰の硝酸態窒素が雨によって下層に流出したり地下水を汚染したりするため。アンモニア態窒素からも反応過程で温室効果ガスの一酸化二窒素が発生する。

 こうしたことから、茶園土壌の硝化菌、特にアンモニア酸化細菌の作用を制御する施肥法や強力な硝化抑制剤の開発が求められている。そのためには、窒素多肥によって強酸性になっている茶園土壌でも機能する耐酸性のアンモニア酸化細菌を見つけその性質を明らかにする必要がある。

 農研機構は、他の研究機関と協力して茶園土壌の硝化を制御する方法の開発に取り組んでおり、酸性土壌で硝化を担うアンモニア酸化細菌探索の中でpH3の茶園土壌から強い酸性に耐えるアンモニア酸化細菌を発見した。pH2~6まで生育することを確認している。

 このアンモニア酸化細菌は、形態が海洋や湖水に見られるアンモニア酸化細菌に類似しているが、生理的性質やゲノム解析の結果がそれと大きく異なり新種であることが分かったという。

 同機構は、引き続き分離したアンモニア酸化細菌の農耕地土壌での分布状況と硝化への寄与を明らかにする研究に取り組んでおり、硝化抑制剤の開発を目指している。