[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

わかる科学

人も地磁気を感じていた!?

(2019年4月15日)

(図1)実験の様子。電磁波シールドを施した暗室内に、2m角の3軸コイルを設置し、その中央に被験者の頭部がくるようにして、コイルに電流を流して、地磁気程度の弱い磁界で刺激する。(©C.Bickel,courtesy AAAS)

 渡り鳥や鮭など、多くの動物が地磁気に感受性があることがわかっています。しかし、ヒトは視覚や聴覚のように感覚器官で地磁気を感じることができません。研究者の間でも、これまでヒトの磁気感受性についてはよくわかっていませんでした。

 ところがこのたび、ヒトには意識には表れないものの、潜在的に磁気に対する感受性があることが確認されました。

 カリフォルニア工科大学のカーシュビンク教授、同大の下條信輔教授、東京大学の眞溪歩准教授らの国際共同研究チームは、地磁気と同じくらいの強さの磁気刺激によって、脳波に変化が生じることを発見しました。

 研究チームは、電磁波をシールド(遮断)した暗室内に地磁気程度の強さの磁場を与える実験装置を製作しました。この暗室の中央に被験者を座らせ、方向を変えて磁気刺激を加え、頭部表面の64か所で脳波の変化を調べました。

 その結果、磁気刺激とアルファ波に有意な関係があることがわかりました。アルファ波はリラックスしているときに観察される8~13Hzの脳波で、視覚や聴覚などによる外部刺激が入ると低下します。

 研究チームは電磁波シールド暗室内に、一辺が2m程度の箱状のコイルを設置して、地磁気相当で磁力の方向が変化する環境を作り出しました。

 実験の結果、N極が下向きに傾斜した磁気刺激に対してのみアルファ波の変化(強度低下)が見られました。N極が下向きの刺激は北半球においてみられるもので、北側の磁場が下向きの伏角を持っています。被験者(34名、性別・人種・年齢はいろいろ)が主に生活している米国カリフォルニア州や東京にいるときに浴びている磁気と同じものを感じたのだろうと、研究チームは分析しています。

 動物の磁気センシングについては、N/S極を区別できるマグネタイト仮説、電磁誘導仮説、N/S極を区別できない量子コンパス仮説などがありますが、この実験の結果、マグネタイト仮説が有力なのではないかと研究者は考えています。

 ヒトは進化の過程で磁気感受性を失ってきたのかどうか。ヒトの磁気感受性の証拠が発見されたことはこれからの研究において、大きな意味を持ちます。もしも磁気感受性を意識下から意識に上げることができれば、なにかおもしろいことができるようになるのではないか、と研究者たちは考えています。

(図2) アルファ波の変化。特定の磁気刺激によって脳波の波形が変化した。これは、磁気刺激が脳の働きに影響を与えたことを示している。

 

 

 

子供の科学(こどものかがく)

 小・中学生を対象にしたやさしい科学雑誌。毎月10日発売。発行・株式会社誠文堂新光社。

最新号2019年5月号(4月10日発売、定価700円)では、DNAからたどる日本人のルーツを特集。アフリカで誕生した人類がどのような道をたどって日本までやってきたのか、そして、日本人の祖先はどのような人たちだったのか、最新の研究から解き明かしていきます。

その他、「子供の科学」で振り返る平成30年の科学史、身近に最も多い金属「鉄」を知る企画やベストセラー作家・森博嗣先生による工作の連載など、読み応えのある記事が満載!
 記事執筆:白鳥敬
 https://kodomonokagaku.com