[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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「はやぶさ2」便り4 ~ 「はやぶさ2」は舞い降りた ~

(2019年4月01日)

「はやぶさ2」は舞い降りた 第1回目のタッチダウン   
 イラスト 池下章裕氏による

 2019年2月22日、それは予想より早くドップラー変化がプラス(地球から離れる方向)からマイナス(近づく方向)に変ることで地上の我々に知らされた。
 「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに舞い降りて、そして舞い上がったことを。
 「はやぶさ」がイトカワの表面にようやく降り立ってから13年の年月を経て・・・

 以下の時刻はすべて「はやぶさ2」上での時刻(地上時刻はこれより約19分遅れる)
 前日、高度20kmから降下を始めた「はやぶさ2」は、22日の7時07分に高度45mに達して、昨年10月に前もって地上に降ろしていた目印となるターゲットマーカー(TM)を追い始めた。

 これからタッチダウン/上昇までを時系列で追ってみよう

07時10分 TM補足(高度45m)、垂直に降下

07時19分 高度8.5m、着陸姿勢に傾けてピンポイントタッチダウンシーケンス開始 
     TMを航法カメラの視野に入れながら水平移動(CAM-H:降下中の画像)
07時27分 高度8mからの最終降下
07時29分10秒  タッチダウン、直後にプロジェクタイルが打たれる
プロジェクタイル打ち込み装置の温度上昇(爆薬の点火)を確認、サンプラーホン先端に砂埃を確認(事後の映像で)
直後に下部に4基あるロケットエンジンを4秒間噴射、秒速60cmで上昇へ
サンプラーホン先端が地面から離れた直後、膨大な量の砂塵(中にはもっと大きな岩も含まれる)がロケット噴射の反動で舞い上がる(CAM-H:上昇中の画像)、1mもあるかという大きな岩が表面で飛ばされて移動してく様子も見られる
(地球の8万分の一というほとんど無重力に近い天体表面での出来事!それは予想を超えるものだった)

高度10m、20m、40m・・・ まだ飛び上がった破片が「はやぶさ2」を追いかけるようにいつまでも上昇を続ける(これも無重力に近い世界ならではの挙動)

後には黒々とした着地点痕跡が残された
2019年のこの日に確かに「はやぶさ2」がここにいたという証(あかし)として

 

そして11時20分 サンプルが入ったと考えられる“サンプルキャッチャーA室”が閉じられた。こうしてサンプルが「はやぶさ2」機体にしっかり確保された。 

 2005年の「はやぶさ」のタッチダウンでは、ミューゼスの海という比較的平たんな地域の100m範囲を目標として降下したのに対して、「はやぶさ2」ではL08-E1という6m範囲を目標として、最終的には目標点から1mという精度でタッチダウンを行うことが出来た。「はやぶさ」から引き継がれた技術と人は、世界で誰も成し遂げたことがなかった3億km以上離れた小天体へのピンポイントタッチダウンを成功に導いた。

 その成功の陰には、「はやぶさ」で不具合のあった機器や搭載ソフトウエアを徹底的に洗い出し、改修して、チューンアップした開発の力と、2005年に「はやぶさ」の運用をチームの若手として見続けて、その経験を刻み込んだ「はやぶさ2」運用チームの卓越した技があった。

「 人が技術を創り
                そしてそれを使うのもまた人 」

 4月5日、今度はインパクタに仕込んだ爆薬を爆破させることで重さ2kg弾頭部(純粋な銅で出来ている)をリュウグウ表面に衝突させる。これによって内部の物質を採取することで太陽の紫外線や、放射線によって変成している表面物質と異なる内部の変成の少ない物質が手に入る可能性がある。
 この強力なインパクトによってどんなクレータが形成されるのか期待が高まる。

 次回コラムでは3月19日に米国の学会で発表され、米国の“サイエンス誌”に公表された「はやぶさ2によるリュウグウの初期の観測結果」から何がわかったかをお伝えしたい。

提供 JAXA 3/5記者会見資料による
(左)降下中 高度8.5m から撮影(サンプラーホーン先端を見るCAM-Hによる画像)
   はやぶさ2自身の影と、左下の岩の右に太陽光を受けたTMが見える
(右)上昇中 高度2.9m から撮影(CAM-H画像)
   プロジェクタイルの衝突と、上昇のためのロケットエンジン噴射の反動で舞い上がった
   多数の粒(黒く見える)が飛び散っている様子がわかる

 

用語解説

ピンポイントタッチダウン
当初の想定では降下はTMを視野にとらえたままの垂直降下をおこなう方式だったが、目標点がTMから数m離れた地点に設定されたため、TMを視野から外して離れた目標地点に最終降下を行う方式をとった

プロジェクタイル
サンプラーホーン上部から地面に向かって秒速300mで撃たれる直径5㎜ほどの小弾丸、表面を砕いてサンプルを舞い上がらせる

 

 

小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
 NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。