ツキノワグマの遺伝的特徴が琵琶湖を境に西と東で大きく違うことを発見:森林総合研究所

 (独)森林総合研究所は8月31日、本州全域と四国のツキノワグマの遺伝的な特徴を調査した結果、日本には大きく分けて東日本、西日本、南日本の3つの系統(遺伝グループ)が存在し、遺伝的特徴は、琵琶湖を境に東西で大きく違っていることが分かったと発表した。
 ツキノワグマは、本州や四国に分布している森林性の大型哺乳類で、東日本では連続的に分布しているものの、西日本ではいくつかの地域に孤立して分布している。このうち西日本の孤立個体群は、環境省のレッドデータブック(絶滅危惧種のデータブック)において絶滅のおそれのある地域個体群に指定されている。このため、ツキノワグマを保全するには、全国レベルで遺伝的な特徴を解明し、その生息域の分布状態を明らかにする必要がある。
 調査では、本州や四国で捕獲されたクマの筋肉、血液、体毛などから遺伝子を取り出し、ミトコンドリアDNAのD-loop領域と呼ばれる部位の塩基配列を解析した。
 ミトコンドリアDNAは、一般に言われるDNA(細胞の核の中にある DNA)とは異なり、母から子に受け継がれる特徴がある。このためミトコンドリアDNAの空間的な分布は、メスの移動を反映したものになっている。哺乳類のオスは遠くに移動するのに対し、メスは生まれた周辺にとどまる性質がある。
 解析の結果、日本に存在する3つの系統(遺伝グループ)のうち、1つ目は東北地方~琵琶湖(東日本グル-プ)、2つ目は琵琶湖~西中国(西日本グループ)に分布し、琵琶湖を境に東西に2分されていた。また、紀伊半島と四国には、3つ目のグループ(南日本グループ)が分布していた。
 東日本グループの遺伝的多様性(個体群内の遺伝タイプの多さを表す指標)は、森林植生の変遷が影響している可能性を示した。しかし、東北地方北部では遺伝的多様性が低いことが分かった。その原因は、氷期に小さな個体群に分断されたことにより、遺伝的多様性が低下したためとみている。
 また、南日本グループと西日本グループの個体群では、針葉樹を中心とした人工林の増加など環境の変化により、孤立・小集団化が進み、遺伝的多様性が低下したと考えられるという。
 さらに、日本のグループは、アジア大陸のグループと系統的に大きく異なっていることも分かった。今から30万~50万年前に大陸から渡ってきた後、3つの遺伝グループに分岐したと推定している。

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