微生物から高等生物への種の壁を越えた遺伝子の水平転移を突き止める
:森林総合研究所/産業技術総合研究所/放送大学/愛媛大学

 (独)森林総合研究所は9月4日、(独)産業技術総合研究所、放送大学、愛媛大学と協力して、マツ材線虫病の媒介昆虫であるマツノマダラカミキリの常染色体(雌雄の性を決める性染色体以外の染色体)上に、節足動物や線虫類の共生細菌であるボルバキアの遺伝子が大規模に「水平転移」(種の壁を超えた生物間の遺伝子転移)していることを突き止めたと発表した。
 一般的に、生物の遺伝子は、親から子へと伝えられ、延々とその子孫に受け継がれていく。これを遺伝子の垂直伝播と呼ぶが、その一方で遺伝子が生物の種の壁を越えて他の生物へ伝えられる現象(水平転移)も知られている。
 遺伝子の水平転移は、細菌などの下等な生物(原核生物)間では比較的頻繁に起こることは知られていたが、昆虫や動物などの高等生物では、まだ遺伝子水平転移の実証例が少ないことから希な現象とみられていた。
 マツノマダラカミキリは、マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウを媒介する森林害虫として知られている。
 今回の研究では、マツノマダラカミキリの10本の常染色体のうち、大きい方から数えて7番目の染色体上にボルバキアの遺伝子が転移していることが明らかになった。また、ボルバキアの遺伝子地図(染色体上の遺伝子の位置を示したマップ)を調べたところ、ボルバキアが持つ214の遺伝子のうち31の遺伝子(約14%)が、マツノマダラカミキリに転移していることが分かった。
 微生物から高等生物への大規模な遺伝子水平転移を、今回のように詳細かつ具体的に証明した例は世界的に見ても極めて少なく、高等生物の機能や進化に及ぼす遺伝子水平転移を考える上で極めて重要な発見といえる。
 マツノマダラカミキリは、これまでマツ材線虫病の媒介者としてのみ知られていたが、今後は高等生物の機能や進化に及ぼす遺伝子水平転移の影響を解明するための貴重な研究材料として注目されるものと見られる。
 この研究成果は、英国王立協会紀要のオンライン速報版(8月19日)に掲載された。

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マツノマダラカミキリの染色体上に存在するボルバキアの遺伝子。7番目の染色体上の矢印の部分がボルバキア遺伝子(提供:森林総合研究所)