(独)理化学研究所は3月31日、東京大学との共同研究で実験用マウスの遺伝的育種を迅速化し、マウスの世代交代に要する期間をこれまでの最短期間の半分の一世代あたり42日間に短縮することに成功したと発表した。
マウスは、世界で最も多く使われている実験動物で、毎年遺伝子改変などにより多数の遺伝的変異マウスが作り出され、遺伝子機能の解析などの研究に使われている。
これらの変異マウスは、遺伝的に多様であるため、交配育種による標準化や均一化が進められている。しかし、これまでの交配育種は、一世代当たり3~4カ月かかる世代交代を、数回~10回以上繰り返す必要があり、実験用に使えるマウスの系統を得るまでには1~3年という年月を費やしていた。
研究グループは、マウスの世代交代の期間短縮を試み、自然交配(成熟精子を卵子に注入することで受精)が可能になる性成熟以前の雄(未成熟雄)マウスから未熟な生殖細胞(円形精子細胞)を採取し、顕微授精技術(顕微鏡下での操作により受精させる技術)を用いて、子が得られることをこれまでの研究で確認してした。しかし、雄が若いほど顕微授精技術が難しくなるため、未成熟雄を使った世代交代を複数回続けることができるかどうかは不明であった。
今回の研究では、様々な日齢の未成熟の雄を検査した結果、生後22日以降の円形精子細胞が、効率よく顕微授精に使用できることが分かった。通常、マウスは自然交配が可能になるまで生後2~3カ月必要とされているが、円形精子細胞を用いることで、受精までの期間を約3分の1に短縮することができた。
また、マウスの妊娠期間は20日間であるため、一世代は最短で42日間(22日+20日)と、通常の世代交代に要する最短期間80日間(60日+20日)を半分に短縮することができた。これは、哺乳類動物では最短記録となる。
さらに、遺伝的に雑種の状態にある3種類の遺伝子改変マウスの標準化を大幅に短縮し、106~190日で遺伝的に均一化した実験用マウスを作り出すことができた。
今回開発したマウス世代交代の迅速化技術は、競争の激しいマウスを用いた研究に貢献するばかりでなく、家畜の品種改良などへの応用も期待されている。
この研究成果は、米国のオンライン誌「PLoS ONE」の3月31日付号に掲載された。
No.2009-13
2009年3月30日~2009年4月5日