高エネルギー加速器研究機構と(独)理化学研究所は10月7日、東京大学や東北大学、群馬大学などとの共同研究で、肌や髪を黒くするメラニン色素の輸送に必要なタンパク質「Rab27」の2つの複合体の構造を世界で初めて解明したと発表した。
メラニン色素は、「メラノサイト」と呼ばれる皮膚の基底層にある細胞の中で合成され、メラノサイト内の「メラノソーム」という色素顆粒(色素の微小な粒)に貯蔵される。このメラノソームが、メラノサイト内を移動し、肌や髪の毛を作る細胞に受け渡されることで、肌や髪の毛が黒くなる。
メラノサイトにおけるメラノソームの輸送は、Rab27と呼ばれる低分子量のGタンパク質(細胞内の生化学反応を切り替えるシグナル伝達などの機能を持つタンパク質)が、エフェクターと呼ばれるタンパク質と結合することにより、正常に行われる。Rab27A(荷札役のタンパク質)は、Slac2-a(車の運転手役のタンパク質)、Slp2-a(宅配人役のタンパク質)という2つのエフェクターを連続的に用いて、メラノソームをメラノサイトの核周辺(発送元)から細胞膜(届け先)まで輸送する。
研究グループは、メラニン色素輸送に中心的な役割をしている2つのタンパク質複合体「Rab27A―Slp2-a」と「Rab27B―Slac2-a」の結晶作製に初めて成功し、高エネ研の放射光科学研究施設「フォトンファクトリー」や兵庫県にある大型放射光施設「SPring-8」を用いてその構造を解明した。これによってRab27とSlac2-aおよびSlp2-aとの結合に重要なアミノ酸残基(タンパク質の構成単位)を明らかにし、Rab27が特定のエフェクターを認識する基盤を解明した。
また、Rab27AとSlac2-aのアミノ酸残基の変異が、肌の白色化の症状を示すグリセリ症候群という遺伝病を発症する分子メカニズムも突き止めた。
この研究成果は、これらのタンパク質の結合を阻害あるいは安定化するような薬剤の設計に応用することが可能であり、また、メラノソーム輸送を人為的に制御することで、肌の美白の維持や白髪発生の抑制につながる可能性が期待されている。