(独)産業技術総合研究所と藤田保健衛生大学は9月22日、カーボンナノチューブの一種である角笛状のカーボンナノホーン(CNH)にガンの光治療用物質である亜鉛フタロシアニン(ZnPc)を詰め、患部に注射後の10日間、レーザー光線を毎日15分間照射する皮下実験で、マウスの腫瘍がほぼ消滅したことを確認したと発表した。
カーボンナノチューブを用いたこの種の動物実験で効果が認められた例はこれまで無く、新しい治療法に道を開く成果として今後の発展が期待される。
実験で使ったCNHは、先端がツノ状の太さ2~5nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)、長さ40~50nm。研究者は、このCNHに光感受性のZnPcを詰め、生体用に表面にタンパク質を付けて水に溶け易くした。実験用マウスの両わき腹の皮下に腫瘍を移植して1週間後、このCNHをマウスの両わき腹に注射、一方の腫瘍にだけ、波長670nmの赤色のレーザー光(出力160mW)を10日間、15分ずつ照射した。すると、照射した腫瘍は消滅、再発もなかったが、照射しない方の腫瘍は日ごとに大きくなった。
これは、レーザー光照射でZnPcが発生する活性酸素が腫瘍を死滅させる光線力学治療効果ばかりでなく、容器であるCNHがレーザー光を吸収して高温になり、その熱で腫瘍を退治する光温熱治療効果も加わった結果と見られる。
ZnPcのみ、あるいはCNHのみ投与した場合も、レーザー照射で、ある程度の効果は認められたものの、腫瘍消滅にはならなかった。
今後、大学や企業と協力して静脈注射でも使えるように改良を進めると共に、CNHのサイズ制御も検討して、実用化を目指すとしている。