(独)物質・材料研究機構と静岡大学は9月9日、自然に直線状に成長する有機半導体を開発、この有機半導体の分子ワイヤーを2本平行に成長させて電極を付け、理論演算回路などに使われるトランジスタを試作、動作を確認したと発表した。この有機半導体は、単結晶で、従来の有機半導体より導電性が10倍程度高い。 発表では、ベンゼン環が5つ繋がるペンタセンにメチルチオ基(SCH3)が2つ付いた分子をシリコン基板上に真空蒸着すると、直径20~100nm(ナノメートル、1nmは10 億分の1m)で長さ1~5µm(マイクロメートル、1µmは100万分の1m)の有機半導体が自然に一次元的に成長することが分かった。X線回折法などで構造解析の結果、[1]分子面が重なる方向にワイヤーが成長していること、[2]1本のワイヤーは単結晶体であること、が確認された。 この分子ワイヤー1本の抵抗率を同機構独自開発の手法で測ったところ、約1万Ωm(オーム・メートル)で有機半導体材料として知られるフタロシアニンなどより一桁低かった。換言すれば、導電率は一桁高く、従来の有機半導体と比べて10倍程度電気が通り易い。これは、隣り合う分子同士の面が向き合う分子配列になっていて電気伝導に関係する電子の軌道の重なりが大きいこと、単結晶であること、分子ワイヤーの直径が均一で直線性が高いこと、などによる。 有機材料を使うエレクトロニクス研究は、新しいエレクトロニクス分野として活発に進められているが、素子の性能自体がシリコンデバイスにはまだ及ばない。 この素子特性の向上には、導電性の向上が欠かせないが、その導電性を決める因子は分子配列と結晶性とされる。今回の分子ワイヤーは、分子配列と結晶性だけでなく、有機材料特有の柔軟性も併せ持ち、さらに自己組織的に成長するので、微細加工しなくてもnmオーダーの微小構造が得られ、将来のナノエレクトロニクス材料として注目される。 詳しくはこちら |  |
新開発のワイヤー状有機半導体の電子顕微鏡写真(提供:物質・材料研究機構) |
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