血球細胞がつくられる仕組みを解明
―「エピジェネティクス」制御の働きを突き止め
:筑波大学(2015年10月29日発表)

 (国)筑波大学は10月29日、同大学医学医療系の小林己人講師らの研究グループが体内で血球細胞がつくられる仕組みを明らかにしたと発表した。「ヘマンジオブラスト」と呼ばれる血球‐血管内皮共通前駆細胞前駆細胞から分化する仕組みを解明したもので、そこに、遺伝子発現を制御・伝達するシステム「エピジェネティクス」制御が働いていたことを突き止めた。

 

■医学的応用への発展も

 

 血球は、血液中に浮遊している細胞成分のことで、赤血球、白血球、血小板の3種類があり、骨の中心部の骨髄にある造血幹細胞で作られている。

 ヘマンジオブラストが発見されたのは1917年と古いが、存在が長い期間否定され続け、認知されたのは20世紀末のこと。そのためか、ヘマンジオブラストからどうやって血球になるのかという血球分化のメカニズムについては、いまだ不明な部分が多い。

 研究グループは、発生学でモデル動物として使われる体長5cmほどのゼブラフィッシュを使って研究を進めた。ヘマンジオブラストからの血球分化に障害を持つゼブラフィッシュを調べたところ、原因となる遺伝子が「ヒストン脱メチル化酵素(LSD1)」にあることを突き止めた。ヒストンはDNA(デオキシリボ核酸)に巻き付くタンパク質で、LSD1は、転写をしにくくさせる作用がある。

 ヘマンジオブラストの作製には転写因子遺伝子「Etv2」が必須だが、ヘマンジオブラストが血球細胞に分化するのにはEtv2の発現抑制が必要で、LSD1がEtv2への発現抑制にかかわり、血球への分化を促進することが分かった。DNA(デオキシリボ核酸)塩基配列の変化(突然変異)によらない発現制御である「エピジェネティクス」制御が発動され血球分化が進む、という血球分化モデルが明らかになった。

 

 同研究グループは、この研究成果を発展させれば医学的応用が開けると見ており、「LSD1のスイッチオン・オフが自在にできれば、造血幹細胞や血管内皮細胞の増減が可能になるかもしれない」といっている。

詳しくはこちら

図

この研究が提案するヘマンジオブラストからの血球分化モデル(提供:筑波大学)