(独)国立科学博物館は2月20日、昆虫が花の香りをかぎ分けて自分の好きな特定の花の花粉だけを運んでいることが分かったと発表した。渓流沿いに自生する多年草「チャルメルソウ」と、その花粉を運ぶ昆虫「キノコバエ」の関係を調べて突き止めた。花を咲かせる被子植物に30万種以上もの多様な種が生まれた進化に昆虫が深く関わっていることを示す有力な証拠になるという。
■少なくとも5回、過去に種の分化
チャルメルソウは海外にはほとんどなく日本列島で独自に進化した多年草植物。13種が知られているが、互いに近縁で人工的に交配すると簡単に雑種ができるものの、野外では別種が共存していてもほとんど雑種ができない。
科学博物館の奥山雄大研究員らはこの点に注目、野外で雑種ができない仕組みを調べていたところ、同じ場所に生えている2種のチャルメルソウの間で花粉を運ぶキノコバエの種が異なることを発見した。
そこで2種の昆虫にチャルメルソウの花の香り成分「ライラックアルデヒド」を与えたところ、一方の昆虫はその香りを好んだが、他方の昆虫は避けることが分かった。さらに、チャルメルソウの仲間がどのように13種に分かれたかをDNA配列から分析したところ、花の香りの進化によって起きた種の分化は過去に少なくとも5回繰り返していた。このことは、日本列島で繰り返しチャルメルソウの新種が生まれる際に、花の香り成分が重要な役割を果たしたことを示している。
花の香りが変化することで花粉を運ぶ昆虫が変わり、新しい植物の種が生まれることは、ランが昆虫を偽のフェロモンでだまして花に呼び寄せるという特殊な例で知られていた。しかし、今回の成果によって、花の蜜を求めてやって来る昆虫に花粉を運んでもらうといったごく一般的な花でも同様の種の分化が起きることが実証できたという。

京都市貴船の同じ場所に生えているチャルメルソウ(左)とコチャルメルソウ(右)。この2種の間では、自然に雑種ができることはほとんどない。チャルメルソウが長い口を特徴とするミカドシギキノコバエだけを花に呼ぶのに対し、コチャルメルソウが口の長くないコエダキノコバエを花に呼ぶことで、お互いの間で花粉のやり取りが起こらないためであることを発見した(提供:(独)国立科学博物館)