(独)物質・材料研究機構は7月17日、右手と左手のように互いに鏡に映した鏡像対称関係にある分子「光学異性体」の純度を測定する新技術を開発したと発表した。従来法は微量不純物の影響を受けやすく事前に試料を高度に精製する必要があったが、新技術は影響されにくい核磁気共鳴分光法(NMR)を利用できるようにして計測の簡便化・迅速化を実現した。チェコ共和国のカレル大学研究者らとの共同研究による成果。右手型と左手型は生体に与える影響が大きく異なる可能性があるため、純度測定が不可欠な医薬品業界などで広く使われると期待している。
■試薬の独自開発で簡便化進む
アミノ酸や糖など生体を構成する分子の多くは光学異性体のうちの一方が占めている。このため同じ化学式を持つ物質でも例えば左手型が薬として使えるのに、右手型は毒性を示すなど、生体への影響は大きく異なる。このため右手型と左手型を作り分ける不斉合成や純度測定が極めて重要な技術になっている。
従来は純度を調べるのに、試料に光を当ててその透過光の特性変化を調べる光学分割法と呼ばれる技術が一般的。分子の構造解析に威力を発揮するNMRを使う手法もあるが、光学異性体の純度測定に応用するには、別の光学異性体を用いた試薬を予め試料に添加し、試料を鏡像対称でない状態に変換する必要があった。
これに対し研究グループは、光学異性体を使わない試薬「対称構造型ポルフィリン」を独自に開発、NMR法で簡単に純度が測定できる技術を実現した。開発した試薬は試料の光学異性体と結合するが、鏡像対称でない状態に変換されることはない。しかし、この状態の試料をNMR装置で分析すると、右手型と左手型の割合に比例してNMRから得られる信号が変化し、その信号から純度が測定できることがわかった。
NMRは試料中に含まれる不純物の影響を受けにくいため試料の事前処理も容易で、リアルタイム解析にも使える簡便・迅速な測定技術になると、研究グループは期待している。