(独)産業技術総合研究所は3月26日、「U7 RNA」と名付けられたヒトの細胞核内のRNA(リボ核酸)が、細胞内の状態に応じて促進と抑制という二つの相反する遺伝子発現制御を行うことを発見した、と発表した。
DNA(デオキシリボ核酸)が複製されて新しい染色体が形成される時(S期)には遺伝子発現を促進し、S期以外の時には抑制の役目を果たしているという。創薬開発へのRNA機能の新たな利用が期待できるとしている。
U7 RNAは、タンパク質のアミノ酸配列の暗号情報には直接関与していない、いわゆるノンコーディングRNAの仲間。主に細胞核内で、それ自身で何らかの重要な機能を果たしている「機能性RNA」の一種。遺伝暗号の鎖であるDNAは、ヒストンと呼ばれるタンパク質と結合して細胞核内に収納されているが、U7 RNAはDNA複製期のS期にこのヒストンの遺伝子の発現を促進する「正」の制御を行うことが知られていた。U7 RNAのこの制御によりヒストンが合成され、DNAとヒストンが結合して細胞核内に新しい染色体が形成されるという仕組みだ。
ところが、U7 RNAは、DNA複製が起こっていないS期以外の時期にも細胞核内に豊富に存在していることから、研究チームはS期以外の細胞中のU7 RNAの働きを調べようとU7 RNAを分解したところ、本来なら発現が抑制されているヒストン遺伝子の転写が著しく上昇した。そこで、逆にU7 RNAを過剰に合成させたところ、転写が抑制されたという。
これらの結果から、U7 RNAは、S期以外の時期には単に機能を停止しているのではなく、ヒストンが作られないように「負」の制御をしていることが分かった。
ヒストンは、塩基性が強く細胞に有害なため、不要な時期にはヒストン遺伝子の発現を厳密にコントロールする必要がある。今回の研究で同一のU7 RNAが相反する二つの役割を担っていることが判明したことから、研究チームは今後、同一のRNAが促進と抑制を使い分けている巧妙なメカニズムや、細胞の状態がS期にあるかそうでないかを感知している仕組みなどを解き明かしたいとしている。
No.2012-13
2012年3月26日~2012年4月1日